78 / 271

第78話◇好きです

 先輩のキスで衝動的に盛り上がった劣情が何とか収まってくると、今度は、何だかすごく嬉しくなってきてしまった。  他の人とキスとかしたくなくて。  そういう気持ちがわかなくて困るって、長い間、悩んでた人が。  オレとキスしたくて我慢できなくなったとか言って。  キス、してくれたんだよね。  それは、すごいコトな気がする。   「――――……先輩」  触れるだけのキスを、先輩の唇に重ねる。  先輩は、何も言わず、キスを受けて、それからじっとオレを見つめた。 「……あのさ。トイレなんかで何なんですけど……旅館まで言わないのは、ちょっと、間があきすぎちゃうので」 「ん……?」 「――――……オレ、先輩が好きです」  この状況。整理して伝えたくて、そう言ったら、先輩は、まっすぐな視線を返してきた。 「オレ、割とモテるし、そういう事に飢えてるからとかじゃなくて……先輩が好きだから、してます」 「――――……」 「……まだ昨日の今日しか、先輩と居ないし、どんな意味か、まだはっきりよく分かんないですけど。 ……ていうか、どんな意味でも、好きだと思います」 「――――……」 「……だから、先輩もオレをどう思ってるか、考えてもらっていいですか?」 「――――……」 「すぐに答えてくんなくていいですよ。――――……今夜の事は……その答えが出てなくても、先輩が嫌じゃなければ予定通りで。終わってから、その件も含めて、しばらく考えてくれてもいいです。とにかくオレは、先輩が好きで、好きだから、こう言う事も全部、してます、てことで……」  とりあえず全部、言いたいことは言った。 「……じゃ、そういう事で。――――……ここ出ましょうか」 「……」 「オレ先に出るんで、声掛けたら出てきてください」  先輩から視線を外してトイレから出ようとしたら。 「三上……」  ぐ、と腕を掴まれた。  まっすぐ、綺麗な瞳が、オレを見上げる。 「先輩……?」  じっと見つめ返すと。   「――――……オレも、お前のこと、好きだよ」  そのセリフに、驚く。  ――――……こんなすぐに、こんな風に言ってくれるとは思わなかった。 「でも、オレもどんな意味か分からない。だから、考える」 「――――……」 「だけど、好きなのは、絶対、好きだ」  さっきまで、赤くなって、瞳潤んで、ちょっと泣いてたのに。  凛とした、綺麗な瞳で、オレをまっすぐ見つめて、そんな風に言う。 「絶対好き」だって。  ――――……はは。やば。 すっげー嬉しいかも。  今じゃなくて良いって言ったのに。思い切りは。いいよなあ。  ――――……やっぱ、カッコイイよな、先輩。  ふ、と笑ってしまう。  頬に触れて、その瞳を見つめたまま近づいて。 「オレ、先輩のその瞳が、すげー好き」  そう言ったら。  さっと、顔に熱が走る。  キレイだし。  カッコいいし。  でもって、恋愛関係だけ、アホみたいに可愛くて。  ――――……絶対、勝てない気がする。 「――――……」    昨日まで、キスするなんて、考えた事も無かった、唇に。  ――――……今までに無い位、キスしたくて。  触れるだけのキスを、何度も、した。  先輩が、照れすぎて、もう、これやめて、と、言うまで。  ――――……ディープキスより、触れるだけのが恥ずかしいって。  マじで、可愛い。

ともだちにシェアしよう!