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第77話◇連れ込まれ

 もうほんとに。  やばいくらい。キスしたいし。  ほんと困る、この人。 「――――……三上、あの」 「……何ですか」  不意に手を掴まれて、引かれる。    オレが今寄りかかってたのはトイレだったみたいで。裏側にすぐ、トイレへの入り口があった。  すげー豪華なトイレだな。 なんて的外れな事を思いながら。 「――――……」  ん? ……何でトイレに連れてこられた?  トイレは空いてて、今は誰もいなかった。    小用のトイレが並んでいて、奥に個室トイレがずらっと並んでいる。   「先輩?」  奥まった方に連れていかれて。周りに誰も居ない事を確認しながら、一緒に、個室に入らされた。  ――――……ん? 何? 「先輩?」 「――――……」  小声で言いながら考えるけれど。  2人でトイレの個室にこもる理由が全く浮かばない。  ――――……2人きりの個室とか。  ……エロい事したくなるのは、オレがいけないんだよな。 「……どうしたんですか?」  そう言って、先輩の顔を見ようとしたら。  肩に手が触れて、ぐい、と引かれた。 「せ――――……」  唇が重なった。  柔らかく。 「――――……っなに……」  思わず、ぱ、と離れてしまう。  ――――……何のつもりだ。 「……キス、したい、三上」  ――――……ほんとにこの人は。  意味、わかんねえ。  言う事もだし、やる、ことも――――……。  耳まで赤くして、俯こうとした先輩の顎に手をかけて上げさせる。   「――――……どういうつもりですか?」 「キスするって、お前、言った」 「煽るならしますよって言っただけで――――……」 「っ……言われたら、したくなって……ごめん」  目の前で、ますます赤くなって、いく。 「――――……」    体の熱が、一気に燃え上がったみたいな。  一瞬何も考えられなくなって。  先輩、抱き寄せて、覆いかぶさるみたいに、口づけた。 「……ン、……っ」  さっきの先輩がした触れるだけのキスとは、全然違うキスをしてしまう。  深くふさいで。舌を絡める。   「――――……っ……」  ふ、という吐息だけが、漏れる。  そもそも、トイレの中にも音楽が鳴り響いていて、多少の声なら聞こえないはず。 「――――……ふ、は……っ……」  潤む瞳。熱い息が、唇の間で零れる。  ……まためちゃくちゃ、エロくなってるし。 「――――……ン……っ……」  舌、深く絡めて。それから、吸って、優しく噛むと。  抱き締めてる背が、素直に反応して、びくびく震える。 「陽斗さん……」  唇を離して、耳元で、囁くと。  びく、と大きく震える。 「だめです、オレ、これ以上は――――……」 「――――……」 「止まんなくなるから、ここまでで」  オレは、先輩をすっぽり抱きしめた。  顔見えないように。  涙目とか、見てると、止まらなくなる。 「――――……三上の、熱い」  うん。まあ。分かってるだろうなとは思ったけど。  やめて、その言い方も。マジで。襲うよ? 「……うん。そのままほっといて。収まるから」 「――――……三上、オレとキスして、熱くなるんだな……」 「なりますよ。――――……てか、昨日で、分かったでしょ」 「……オレも、熱い。――――……はー。……ヤバいなー……」 「……っ……何がですか」  ヤバいのは、あんたのその言動全部だけど。   「キスしたくて、我慢できなくなるなんて――――……ほんとにヤバい」  ……だから。  ほんとに、先輩……。 「……オレと、キスしたくて我慢できなくなったんですか?」  抱き締めたまま、先輩に聞くと。  声は出さず、うん、と頷いて、オレに顔を埋めてくる。    あーもう……。  ………可愛すぎて、ヤバいな。    こんなとこで、これ以上する訳にも行かず。  早く収まれと祈りつつ。  ほんの少し、抱き付くみたいに手が回ってくるだけで、  また意味が分からない位、興奮するとか。     「……ごめん。こんなとこ連れ込んで」  しばらくして、落ち着いてきた頃。  ぽそ、と、先輩がつぶやく。  確かに連れ込まれた。  ホテル連れ込みたいとか、思ってたら。トイレに連れ込まれるという。  ――――……なんか、可笑しくなる。  連れ込まれた事は、それは別に謝られるような事じゃない。  いや――――……別に、ていうか、大歓迎というか。  だってオレは、先輩に触れたいから。

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