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第76話◇モテるって。

 別にオレがやってるのは、女の子にモテたいとかじゃなくて。  まあ。自然とやってしまってる事もあるけど。  先輩だからやってあげたいってとこも大きいし。  女に、とか。  関係ねーんだけどな……。 「……じゃあそれ勉強して、今度、女の子にやってあげるんですか?」  これ位なら聞いても良いかなと、聞いてみた。  すると。え?とオレを見上げてきて、先輩が口を噤んだ。 「――――……」  そのまま、黙ってる。 「先輩?」  視線を合わせて、答えを促すと。 「――――……」  言葉はなく、首を横に振ってから、視線を逸らされた。 「先輩?」 「――――……分かんない。勉強にはなるけど」 「――――……」 「……だた何となく、三上はモテるだろうなーて、思っただけ」  なんかよく分かんねえけど。  ――――……それ、やなの? 嫌そうな顔。してるけど。  そう思っていたら、先輩が、んー、と眉を顰めたままオレを見上げてきた。 「……なんか、ほんとに三上、モテそうでちょっとムカつく」 「――――……」 ムカつく???  ムカつくって、それって――――……。  ……あー。 聞きたいなあ。  でもこれ聞くと。絶対固まるだろうなあ。  ………普通こんなのでムカつくとか。  理由なんか2つ位しか浮かばない。    自分もモテたいから、ズルいって思ってムカつくか。  じゃなかったら。  モテてほしくないのに、モテてるからむかつくか。  ……後者は完全にヤキモチだよな。自分の彼氏がモテてむかつくとかさ。    ――――……先輩はどっちかなあ。  ……いやでも。先輩の場合、突然に、意味が分からない理由が浮上してくるかもしれない。  オレには予想もつかない何か、意味の分かんねー理由があるかも。 「あの、先輩」 「ん?」 「何でオレがモテると、ムカつくんですか?」 「え? なんでって? ムカつくだろ?」 「どうしてですか?」 「どうして……??」  ほんとに質問の意味が分からないのか、オレをじっと見つめてくる。  「先輩のそれって」 「――――……?」 「オレが女の子にモテるの嫌って」 「ん……?」 「ヤキモチですか?」 「――――……ヤキモチって??」  ゆうに数秒固まった後、オウム返しで聞いてくる。 「……誰が誰に?」  先輩が、マジで意味が分かんないと言った顔をしてる。 「あ、もういいです。大丈夫」  こっちが意味が分からなくなってきた。  だめだ、全然通じねえし。  え、何でムカつくんだ?  ――――……ヤキモチじゃねえの???  連れの男が女にモテそう、で、ムカつくなーって思うのって……。  しばらく2人無言で歩きながら、どこへともなく、進んでいると。 「……あ」  先輩が横で、声を出した。ふと先輩の顔を見ると。  分かったかも、みたいな顔で、見上げてくる。 「ヤキモチってさ。 オレが三上の事好きだからモテてほしくないとか、そういう意味で聞いてる?」  ――――……うん。まあ。そうだけど。  そんな風にはっきり、「オレが三上の事好きだから」って。  良く口に出したな。  …………それは、恥ずかしくないのか??  好きだとしてっていう仮定の話だから恥ずかしくないのかな。  はあ。なんかもう。  先輩って。なんだかな、もう。 「――――……うーん。……ちょっとあるかも」 「?」  あるかもって? 「……三上が色んな女の子に優しくしてるとことか想像するとムカつくから、ヤキモチっていうのは、あるのかも」 「――――……」  ――――……マジで、馬鹿なの。先輩。  オレは、思わず、先輩の腕を引いて。  道の隅、何かの店の壁際に寄って、先輩をまっすぐ見下ろした。 「……悪いんですけど」 「――――……?」 「……あんまり煽ると、もうその場で、キスしますよ」 「……は?」  先輩は、言われた事を多分自分の中で反芻して。  分かった瞬間なんだろうけど。数秒、遅れて。真っ赤になった。 「…………っなに、言ってん、の」 「何言ってんのはこっちのセリフですよ……」  狼狽えに狼狽えてるのが、また可愛いんだけど。  まさかほんとにキスするわけにもいかないし。  先輩の真正面からずれて、オレも壁にもたれた。  もうほんと。  ――――……いますぐここ出て、ホテル、連れ込みたい位。  一気にキたけど。  キスごときの話でこんな狼狽えられると、その気も、また一気に萎えるというか。    とりあえず、落ち着け。  惑わされるな。落ち着けよ、まじで。

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