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第75話◇女にモテたい?

「先輩、そろそろこっち向いてくれません?」 「――――……」 「変ですよ、2人で居るのに、完全に先輩がそっち向いてるの」  苦笑しながらそう言うと、先輩、ようやく、こっちを向いてくれた。 「……なんかさ」 「ん?」 「……三上って、結構」 「うん?」  そこまで言って、先輩が固まってる。  やっと食べ終わったらしい、クレープを包んでた紙を折りたたみながら、続きが出てこない。 「何ですか?」 「――――……結構意地悪い?」 「――――……」  えーと。   ……意地悪い? 「……そうですか?」 「――――……分かんない。でも、なんか、からかって楽しそうに見える」 「んー……」  まあ確かに、ちょっと、反応が面白いなとは思ってた。  意地悪いとは言われた事ないけど――――…… ああ。そういえば。 「Sだよねって言われる事がたまにありますけど……」 「あ、そうそう、そんな感じ!」  食い気味に乗っかっけて来て、うんうん頷いて、なんか楽しそうになってる。 ……面白いなーこの人。  まあ。Mじゃねーから、どっちかっつったら、Sかも知んねーから別にそれは良いけど。  じゃあこの人は何なんだろう。  ……無意識で、突撃してくるのを何て言うんだろう。  Sな訳じゃない。別にМでもない。  ……無意識。無自覚。天然。  ――――……この人って、これで何で仕事、あんなに出来るんだろう。  謎に思える位、鈍い時あるし。  ああ。でも昨日の、あのキモイおっさんのとこでの対応見てても。  そういえば、一番キモイとこは、この人、ほとんど分かってなかった。  仕事関係は、敏いしすぐ分かるし、ちゃんと話も通じてたけど。  でも、キモイとこは、見事にスルーか、違う意味で取って、なんか適当にうまく返事になっていたような。ある意味天才……。  ――――……だから、ほんとにその関連だけにものすごく鈍いって事で。なんでこんなにモテそうなのに、そこら辺発達しないで生きてこれたんだろうなあ?  ……分かりやすい好き好きアピールしてくる子としか、付き合ってないんだろうなあ。と、勝手に予想しながら。  謎すぎて、アイスティーをストローで飲んでる先輩を見つめてしまう。 「……あ、先輩、クリーム。ちょっとついてる」  右の唇の端。こっち、と、オレ自身の唇を指して教えてあげたけど。  逆側に触れてる。 「こっち」  紙ナプキンで、そっと拭き取ってあげると。 「――――……」  先輩、黙ってから。 「……三上って、すげー恥ずかしい」 「――――……」  本気で恥ずかしそうに言われて、がく、と崩れそうになる。   「はいはい……すみませんでした」  苦笑いしながら、紙ナプキンをくしゃ、と丸めてトレイに置く。 「もう行きます?」 「うん」 「どこか行きたいとこあります?」 「ううん。いいよ、適当に回るんで、十分楽しいし」  ――――……素直。  ふ、と笑ってしまいながら、先輩のトレイと重ねて、「ちょっと待ってて」と立ち上がって、トレイを片付けた。  先輩の元に戻ると、「ありがと」と言われるのだけれど、何か、ちょっと複雑そうな顔してる。 「……どーしました?」 「なんかさー。三上ってさー」 「はい」  またきた、「三上って」。  ……次はなんだろ?  先輩の次の言葉を待っていると。 「なんかあれだよね」 「……あれ?」 「……あれあれ」 「あれ、とは?」 「理想の彼氏、みたいなこと平気でするよな?」 「――――……」 「絶対モテるよな。三上見てると、ああ、こうやれば、いいのかーって、勉強になる」 「――――……」  またこの人は、ほんとに何言ってんだかよく分かんねえけど。 「……何が勉強になったんですか? たとえば?」 「えーたとえば…………」  2人で歩き出しながら、先輩のあほ発言の先を促すと。 「スイーツ頼む時は、相手の食べたいもの頼んであげる、とか」 「…あれは、オレがどれでも良かったからですけど」 「乗り物乗る時、自然と先に乗せてくれるとか。ドア開けてくれるとか」 「……それはやってるかもですけど」 「飲み物買ってくるから待ってて、とかさ。水持ってきてくれるとか。さっさと片付けてくれちゃうとか?」  ――――……なんかそこだけ聞いてると、オレ、めっちゃ尽くしてる気がしてきて、ちょっと笑える。 「そういうのを自然とやれると、絶対女の子にモテるんだろうなーて、感心してるところ」  ――――……女の子に、モテる。ね。  何か、そこ、引っかかる。  女の子に、モテたいの?   ――――……オレと夜、とんでもないことしようとしてんのに?  口をついて、出てしまいそうになって、一呼吸おいてみる。

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