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第74話◇お幸せに?

 紙コップを一応2つ手に取って、水を入れるボタンを押す。  ――――……つーか、自分はやたら煽るくせに、気づかないんだもんな。  言われると、ちょっと固まってから、気づくみたいで。タイムラグがあって、ちょっと……ていうか、かなり、可愛い。  つか。可愛いは可愛いんだけど。    可愛いと思いながらも。  翻弄されまくるのもなあ。ちょっと悔しい。  ……でも可愛いんだけど。  ――――……はー。なんだかな。  オレの思考、可愛い可愛い、うるさいわと思うのだけれど、その単語が勝手に出てくるから、……仕方ない。  何となく、要らないと言われたけど、紙コップ2つに水を入れて、先輩の元に戻ろうと歩いて、少し遠くからふと気づいた。  女子2人に、先輩、声をかけられている。  ――――……あの人、ほんと良く声、かけられるんだな。 「オレ、連れがいるから、ごめんね」  先輩の声が聞こえる。 「知ってますよ、もう1人、カッコいいお兄さんとですよね? よかったら、このあと、アトラクション一緒にまわりませんか?」  オレと2人で居るのも知ってるのか……。なのに何で先輩1人の時を狙うかな。先輩1人ならオッケイくれそうとでも思ったのかな。  オレがいたら断られそうな?  そういえば、オレって、こういう道歩いててナンパとかはされねえな。  やっぱちょっと怖いんだろうな思う。まあ、自分でも、分かってる。  先輩みたいに、断らなそうな、綺麗な、可愛い雰囲気だと、こうも話しかけられるんだろうか。  ――――……オレは、ふ、と息をついて、先輩の元に戻る。 「どうしました?」  先輩の隣に腰かけながら、先輩に水を渡し、女子2人を見上げた。  ルックスは悪くはない。というか、可愛い方、なんだろうな。  こんなとこでナンパしても、ひっかかる奴がいると思う位には、きっと自信もあるのだろうけど。 「先輩?」 「なんか、一緒に回りたいって……」 「オレらと一緒に?」  ちら、と視線を流すと、女子2人は頷いている。 「……悪いんだけど。オレら、デート中だから」 「「「えっ」」」  オレが言った瞬間。3つの声の、「えっ」が響いた。  ……女子2人は分かるけど。 「――――……」   思わず隣の先輩を見ると。  思わず声を上げてしまったんだろう、咄嗟に口を塞いで、オレを見てる。  くっ、と笑い出してしまう。 ダメだこれ。面白い。  すぐに笑いを引っ込めて、女子2人を見上げた。 「ごめんね、ほんとに今日は、2人で回りたいから」  そこで言葉を切って、話を終わらせる。  あ、と2人が言って。 「わ、かりましたー」 「お幸せにー……」 「お邪魔しましたー」  と、よく分からない別れの言葉を残して、その2人は遠ざかっていく。  居なくなって、ふ、とため息。  ちら、と隣を見ると。  まだ口元を押さえたまま、赤い、し。 「――――……あんなの冗談じゃないですか」 「…………っ」 「なのに先輩があんなに反応して赤くなるから」  ぷ、と吹き出してしまう。 「お幸せにとか。言ってましたよ?」 「……ってか、こんなの三上のせいだし」 「だってデートって最初に言ったの、先輩じゃないすか?」  そう返すと。  先輩てば、ますます赤くなるし。  ダメだもう。  なんでこの人、こんなに可愛いの。  ――――……何でそんな、赤くなるんだろ。  この人って、絶対、オレの事、好きとかじゃない。そんなの分かってる。  昨日まで、たいして、喋ってない。  オレは、あんな態度取られてても、心底嫌えなくて悔しかった位。  他の奴に嫉妬したりする位。  もう元から、この人が、多分相当好きだった。んだけど。だから、オレは、昨日からこの人に、すっかりやられて、すげえ好きで、可愛くて、しょうがなくなってるんだけど。    ――――……この人は別にオレに憧れるとか、あるはずないし。  好きとか、そんなの元々あった訳ないし。  絶対オレを好きとかじゃない、と思うのに。  なんでこんなに赤くなったり。  すんのかな。  全然、理解できない。  けど。  分かってるのに。  ほんと。そんなに可愛く赤くなられると。  勘違いしそうになる。って、まあちゃんと分かってるんだけど。  ほんと可愛くて困る。

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