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第82話◇全部好き。

 しかもさ、オレがムリならいいとか。  …………その程度の軽い感じなのかなーと思い知らされてるような気もして、もう、なんか、ため息しか出てこないのだけど。  ――――……ていうか、何するか、ほんと、分かってる?  最後までとか、そんな言葉で分かってもらってると思ってるオレが間違ってる気すら、してきた。 「……先輩」 「うん?」 「――――……」 「三上?」 「……薬局寄っていいですか?」  え?という顔でオレを見つめてくる。 「う、ん?? ……何買うの?」 「――――……ゴム、今持ってないんで」 「……っ」  普通に聞いてた先輩は、ぴた、と固まって。  それから、また少し膨らんだ。 「っ……いいよ、寄って。ていうか、オレ、買う?」 「自分で買いますよ――――……使うの、オレでいいなら」  そう言って、じっと見つめていると、いくつも言葉を出そうとしては打ち消してるみたいで。 最終的に、すごい早口で。 「…………っもう、三上が買えよっ。もうほんと、からかってばっかりでさ。なんなの、三上……ほんとに」  あ。怒った。最後の方、ぶつぶつ言って、何言ってるかよく分かんねーし。  ――――……もう、なんか、可愛いし、苦笑いしか浮かばない。  ……からかってるんじゃなくて、分かってるのか、試したんだけど。  ――――……でも、今ので、三上が買えって事は……。  分かってはいる、てことでいいんだよな?  前のめりに崩れてた姿勢を正して、は、と息をついた。 「……先輩がやっぱり嫌だったら、買う前に止めて下さいね?」  怒ってる顔をしていた先輩は、オレのその言葉を聞いて。  じっとオレを見つめてから、ため息をついた。 「……オレの方は、さっき、最終確認でいいって言ったじゃんか」 「――――……」  まっすぐな視線。 「もう良いよ、これ以上確認しなくて。 三上が無理なら、それはやめていいけど」 「――――……オレが、無理なんて言う訳ないですよね」  キレイな瞳が、オレをまっすぐに見つめてくる。   「んー……でもさ。お前にさせていいのかなっていう気持ちが、まだ抜けきらないっていうか……」 「させられるんじゃなくて、したいからするんで」  はっきりきっぱり、言い返したら。  先輩は少し黙ってから。ぷ、と笑った。 「……じゃあ――――……もう、それでいいかな……」    先輩は、苦笑いを浮かべながらそう言って。   「三上」 「え」  不意に手が伸びてきて、ぷに、と右頬を摘ままれた。 「先輩?」 「……もうオレかなり確認したからな。後悔すんなよな?」  悪戯っぽく、瞳が細められる。    ――――……とんちんかんな事ばっか言ってたくせに。と思うのに。  もう、腹くくってるのか。  急に、先輩が。  仕事中の時みたいな――――……。  ちょっと年上の、デキる人に見えた。      2年間ずっと。  ――――……自分で多分押し殺しながらも、憧れてた先輩に、見えて。  なんか、すげえ、ドキドキするし。  カッコイイ先輩も好きだし。  ――――……アホみたいに可愛い先輩も好きだし。  なんかオレ、この人、全部好きなのかも。  ……かもじゃなくて、全部好き、だな。  オレが勝手に惚れ切ってる事を知らず。  ぱ、と頬から手を離した先輩は、サラダを食べ始めて、あ、美味しいこれ、とか、笑ってる。  何だか、ふ、と笑いが零れた。 「――――……先輩」 「うん?」 「――――……これから、オレに惚れてもらうように頑張るんで」 「……は?」 「とりあえず今日は、めちゃくちゃ気持ちよくしてあげますね」 「何――――……」  ぽかーん、と口を開けてて。  かなり時間を置いてから。  ぼっと一気に赤くなった。   ――――……ああ。可愛い。

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