83 / 271

第83話◇可愛いしか。

 何となくずっと、ドキドキしながらの食事を終えて。  約束した通り薬局に寄った。先輩には外で待っててもらって。  ゴムのついでに、隣に置いてあるローションに気付く。  必要……??   思わず、店の隅に行って、男同士で検索してしまう。  数秒でざっと見て、両方一緒に買う事にした。  会計を済ませて、店の外で待ってる先輩の元に戻った。 「おまたせ、先輩」 「あ……うん」  なんか、すごーく、微妙な顔をして、オレを見つめてくる。 「どうかしましたか?」  聞くと、んー、と首を傾げてる。 「歩きます?」 「……ん」  何となく2人歩き出しながら、まだ微妙な顔をしている先輩を見てると。 「――――……なんか……」 「ん?」 「……待ってるの、すげえ恥ずかしい」 「え? 何で?」  恥ずかしい? 何で??  「……だって、買ってる物が何か分かってるのに、なんか、それを待ってるって……」 「――――……」  言ってる途中で、そんなに恥ずかしくなるなら、言わなきゃいいのに。  ほんと、可愛いなあ、先輩。 「……オレさっき」 「え?」 「先輩惚れさせるとか言ったけど……」 「――――……ああ。うん?」  話が急に変わったので、先輩はオレを不思議そうに見上げた。   「……どんな好きか分かんないとか、オレ、夕方言ってたなーと思って」 「――――……」 「…………惚れさせたい、て思うような好きなんだと、思います」 「――――……」  先輩は何だか数回パチパチ瞬きをして。 「……っなんかほんと三上ってさ――――……」  そこまで言って、言葉が出なくなったみたいで、口を噤んで、前を向いてしまう。 「だからね、先輩」 「……」 「……なんかその、薬局待ってるのが恥ずかしいとか、そういう、すげえ可愛いなーて事を、平気でオレに向けて言うの、やめた方が良いと思うんですけど」 「――――……」  先輩は、オレのその言葉を聞いて、は?という表情で、またオレを見上げてきた。 「……三上の、可愛いとかいう基準が、全く分かんないんだけど」  本気で分からないんだろうなーという顔でオレを見ながら、先輩がそう言ってくる。  なんかこの微妙に嚙み合わない会話が、すごい楽しいとか。  ――――……そこら辺は、自分でもよく、分からないけど。  でも楽しい事は絶対で。  男で、普段は、すごくカッコいい人だし。  ていうか、会社の奴らとか、絶対先輩の事、カッコいいとしか思ってないだろうし。  こんな、可愛いとか。  ――――……あんなに乱れてエロいとか。  …………他の奴は知らないんだろうなと思うと。  すごく、優越感と。  他の奴は永遠に知らなくていいやと思う、独占欲とが、  心を占める。 「先輩」 「ん?」 「――――……先輩の秘密、なんですけど」 「……うん?」 「絶対、他の奴に話さないでくださいね?」 「――――……」 「絶対ですよ、絶対オレが最初で最後で」  そう言ったら。  むー、と口を尖らせて。 「……ていうかあれ…… 今悩んでないから」 「――――……」 「……だから、言う訳ないし」  小さく言って、何か、俯いてる。  ん? どういうこと ――――……悩んでないの?  ……あ、そっか。それって。 「……オレとが良かったから?」  思うままに、聞いたら。  自分がパスを投げてきたくせに。  瞬間的に、真っ赤になって、こっちを見ずに、そのままぷい、と逆側を向いてしまう。  ――――……うわー。耳まで真っ赤。うなじまで、赤いし。  すっげー可愛いし。  す、と手を伸ばして、赤いうなじに触ると。  びくう!と震えて、オレを咄嗟に睨んでくる。  睨むといっても、真っ赤すぎて。 「――――……っ」  マジで可愛い。  くっ、と笑ってしまうと、先輩は、もうほんと困った顔で怒ってて。  旅館に近付くにつれ、人気がなくなってきていたので。  先輩の手をぐ、と掴んだ。 「もう、ほんと、早く帰りましょ」 「――――……っ」  返事はしてくれないし、こっちも見てはくれないけど。  でも、振りほどきはなしない。  ――――……もう悩んでないんだ。  ふーん。そーなんだ。  ――――……ほんとに、すげー、可愛いな。  もはや、可愛いしか出てこない。やばいなー。これは。

ともだちにシェアしよう!