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第83話◇可愛いしか。
何となくずっと、ドキドキしながらの食事を終えて。
約束した通り薬局に寄った。先輩には外で待っててもらって。
ゴムのついでに、隣に置いてあるローションに気付く。
必要……??
思わず、店の隅に行って、男同士で検索してしまう。
数秒でざっと見て、両方一緒に買う事にした。
会計を済ませて、店の外で待ってる先輩の元に戻った。
「おまたせ、先輩」
「あ……うん」
なんか、すごーく、微妙な顔をして、オレを見つめてくる。
「どうかしましたか?」
聞くと、んー、と首を傾げてる。
「歩きます?」
「……ん」
何となく2人歩き出しながら、まだ微妙な顔をしている先輩を見てると。
「――――……なんか……」
「ん?」
「……待ってるの、すげえ恥ずかしい」
「え? 何で?」
恥ずかしい? 何で??
「……だって、買ってる物が何か分かってるのに、なんか、それを待ってるって……」
「――――……」
言ってる途中で、そんなに恥ずかしくなるなら、言わなきゃいいのに。
ほんと、可愛いなあ、先輩。
「……オレさっき」
「え?」
「先輩惚れさせるとか言ったけど……」
「――――……ああ。うん?」
話が急に変わったので、先輩はオレを不思議そうに見上げた。
「……どんな好きか分かんないとか、オレ、夕方言ってたなーと思って」
「――――……」
「…………惚れさせたい、て思うような好きなんだと、思います」
「――――……」
先輩は何だか数回パチパチ瞬きをして。
「……っなんかほんと三上ってさ――――……」
そこまで言って、言葉が出なくなったみたいで、口を噤んで、前を向いてしまう。
「だからね、先輩」
「……」
「……なんかその、薬局待ってるのが恥ずかしいとか、そういう、すげえ可愛いなーて事を、平気でオレに向けて言うの、やめた方が良いと思うんですけど」
「――――……」
先輩は、オレのその言葉を聞いて、は?という表情で、またオレを見上げてきた。
「……三上の、可愛いとかいう基準が、全く分かんないんだけど」
本気で分からないんだろうなーという顔でオレを見ながら、先輩がそう言ってくる。
なんかこの微妙に嚙み合わない会話が、すごい楽しいとか。
――――……そこら辺は、自分でもよく、分からないけど。
でも楽しい事は絶対で。
男で、普段は、すごくカッコいい人だし。
ていうか、会社の奴らとか、絶対先輩の事、カッコいいとしか思ってないだろうし。
こんな、可愛いとか。
――――……あんなに乱れてエロいとか。
…………他の奴は知らないんだろうなと思うと。
すごく、優越感と。
他の奴は永遠に知らなくていいやと思う、独占欲とが、
心を占める。
「先輩」
「ん?」
「――――……先輩の秘密、なんですけど」
「……うん?」
「絶対、他の奴に話さないでくださいね?」
「――――……」
「絶対ですよ、絶対オレが最初で最後で」
そう言ったら。
むー、と口を尖らせて。
「……ていうかあれ…… 今悩んでないから」
「――――……」
「……だから、言う訳ないし」
小さく言って、何か、俯いてる。
ん? どういうこと ――――……悩んでないの?
……あ、そっか。それって。
「……オレとが良かったから?」
思うままに、聞いたら。
自分がパスを投げてきたくせに。
瞬間的に、真っ赤になって、こっちを見ずに、そのままぷい、と逆側を向いてしまう。
――――……うわー。耳まで真っ赤。うなじまで、赤いし。
すっげー可愛いし。
す、と手を伸ばして、赤いうなじに触ると。
びくう!と震えて、オレを咄嗟に睨んでくる。
睨むといっても、真っ赤すぎて。
「――――……っ」
マジで可愛い。
くっ、と笑ってしまうと、先輩は、もうほんと困った顔で怒ってて。
旅館に近付くにつれ、人気がなくなってきていたので。
先輩の手をぐ、と掴んだ。
「もう、ほんと、早く帰りましょ」
「――――……っ」
返事はしてくれないし、こっちも見てはくれないけど。
でも、振りほどきはなしない。
――――……もう悩んでないんだ。
ふーん。そーなんだ。
――――……ほんとに、すげー、可愛いな。
もはや、可愛いしか出てこない。やばいなー。これは。
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