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第134話◇一緒に出社

 先輩と一緒に出社。  ――――……初めてだな。  ……こんな事に感動してるとか、オレ、ちょっと気持ちわるいなと、自分で思いながら、隣を歩く先輩を不自然にならないように少し見つめる。  営業先から帰る時に一緒に会社に入る事はもちろんあったけど、それとこれは、全然別の話。  あれは望まなくても誰とでもする事で。  今一緒に出社できてるのは。  先輩が昨日、一緒に朝食べようって誘ってくれたから。  たとえそれが、色々やっちゃったせいで、会社で顔を合わせるのが恥ずかしいんだとしても。  望んで一緒に居て、一緒に出社してるのだから、それはもう。 「なんか、三上、嬉しそう過ぎて、嫌なんだけど」 「え、そうですか?」 「そうだよ。ていうか、顔、引き締めて」  顔引き締めてとか、そんな恥ずかしそうに言われると、なんかとても。  ……可愛く見えてしまうんだけど。  だめだ。これ言ったら、先輩との夕飯が無くなる。  黙って自分の顎に手を触れさせて、引き締めさせていると。 「おはよー」 「ああ、青木。おはよ」 「おはようございます」  先輩の同期の青木さん。  エレベーターホールまで一緒に歩くことになる。 「京都行ってきたんだろ?」 「うん。あ、聞いた?」 「聞いた。大変だったなー? 前の担当なんだろ?」 「そう」 「お前の事お気に入りだったって、聞いたけど。大丈夫だった?」 「何だそれ。まあ――――……気に入ってくれてはいたと思うけど。大丈夫だけど?」  先輩はいまだちゃんとは気づいてないし、青木さんがほんとに心配してるとも思ってないんだろうな……。何か不思議そうに、青木さんとやり取りをしている。  というか、もはや、青木さんのほうがちゃんと分かってる気がする。 「ああ、三上も一緒に行ったんだっけ?」 「はい」  青木さんに振られて、頷くと。 「三上も一緒に行ったなら、良かった。話聞いた皆で、大丈夫かなーってちょっと心配してたんだよ」  クスクス笑う青木さんに、先輩は苦笑いしながら、変な心配すんなよ、と笑っているが。  オレ的には、オレが居なかったら、あいつは絶対先輩を食事に連れて行って、きっと酒を飲ませて、そしてきっとあわよくばとか狙ってたんじゃないか……と思うと。  もうすでに、あのおっさんは遠く離れた京都の地に居るとは言え。  気持ち悪くて、最大限にムカつく。 「三上??」  先輩に呼びかけられて、顔を上げると。  すでに青木さんの姿はなく、先輩が不思議そうにオレを見つめていた。 「なんか、複雑な顔してるけど、大丈夫?」  クスクス笑われて。大丈夫です、と言う。 「なんか大丈夫そうに見えないんだけどね」 「――――……ていうか、先輩」 「ん?」  無邪気に見上げられても。  ちょっと今は心配過ぎて、嫌になる。……それでも可愛いけれど。 「……先輩の事、お気に入りとかキモイこと言う奴いたら、とりあえずそいつの会社とフルネーム、オレに教えてもらえますか?」 「……は?」 「もう、全力でガードしますから」  勢い込んで言うと、先輩は、呆れたようにオレを見上げて。  それから、可笑しそうに笑いながら、頷いた。 「そんなに居ないけど、まあ……分かった。キモイ奴、居たらな?」  その言い方にちょっとひっかかて、また言い直す。 「先輩、ちょっと待って。やっぱり、キモくなくても、先輩の事をお気に入りだとか好きとか言う奴居たら。ああ、あと、無意味に良く触ってくるとかあったら、絶対すぐ教えてくださいね。そういうとこの営業は、絶対1人で行かないで、オレ連れてって下さい」  先輩は、一応黙って聞いてはいたけれど。    その内、なんか、すごく苦笑いを浮かべる。

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