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第138話◇仕事モード再開

  「……三上、なんか、それ、変なことの一部になりそうだけど」 「え?」  苦笑いの先輩に言われた言葉に、首を傾げる。 「今日1日は変なこと、言わないって約束したよな?」 「は??」  それは心外。 「全然こんなの普通の事ですけど。ていうかこれは、先輩の身を守るために必要な事なんで、ちゃんと聞いといてもらわないと、困るんですけど」  オレがそう言っている間、先輩は呆れたようにオレを見ながら聞いていたけれど。 「……分かったから……とりあえずもう部屋入るから、その話ももう今で終わりな?」  先輩に諭されるように言われつつ。  ほんと、三上、変。  そんな風に呟かれたのだけれど。  オレが先輩より早く、業務室のドアを開けると。   「……だから、オレをエスコートしなくていいから。ドア自分で開けれるし……」 「そんなつもりないですけど」 「ほんとにもー……タラシ」  なんだかものすごく、綺麗に笑いながらオレを見上げて、ありがと、とオレの前を通り過ぎる。 「――――……」  つか。タラシはどっちだっつの。  ――――……あんたの事好きって言ってる奴に、そんな風に、めちゃくちゃ綺麗に笑うとか。    はー。もう。  ……可愛いけど。  早くOKくれないと。  ……ダメなのに、触っちゃいそうで、困る。  机についてパソコンを起動。  ――――……前回パソコンを落とした、あの金曜日の出張前と。  隣の先輩を見る自分の感情が、  もう、全然違うにも程がありすぎて、笑える。  その時。 「渡瀬、三上ー」  部長がオレ達を呼ぶ声がした。  はい、と同時に返事をして、一緒に部長の席へと向かう。 「おはようございます」 「おはよ。どうだった、京都」 「行ってみたら、特に怒ってもなくて、全然スムーズでしたよ」 「ああ、まあ。京都の担当者からも電話来た――――……まあ、渡瀬が行ったからスムーズだったんだろ」 「もともとそんなに怒ってもなかった気もしましたけど。な?」  ちら、と視線を投げられて、何となく、はあ、と頷いて。 「結局どうしたんだ、京都。いつ帰ってきた?」  部長の何気ない質問に、隣の先輩が、少し固まったのが、オレには分かった。僅かにだけれど。すぐに気を取り直してた先輩は、普通に話し始める。 「旅行しようって事になって、結局昨日帰ってきました」 「へえ。いいなぁ、京都旅行。どこ行った?」 「清水寺とか……」  もはや出張の報告ではなくて、旅行の報告になってるし。  しばらく適当に行った観光地の話題に花が咲いて。  無事報告終わり。 「ふたりとも遠くまでお疲れさま」  はい、と返事をして2人で立ち去ろうとした時。 「あ、三上。ちょっと良いか?」 「あ、はい」  ――――……別任務の方か。  先輩はちょっと不思議そうな顔をしながら、でも呼ばれたのがオレだけなので、先に席に戻って行った。  部長が、ちら、とオレを見上げる。 「どうだった? 先方」 「――――……正直に言って良いですか?」  少し小さめの声の部長に、オレも少し小声になる。 「――――……」  部長はオレの顔を見て、それからぷっと笑った。 「いいよ。誰にも言わねえし」 「――――……行って良かったです。相当やばかったです」 「あー…… やっぱ、そうか」 「はい」 「お前ら行った後、休憩所で渡瀬の同期の斉藤に会ってな。結構心配してたんだよ、京都にまで呼ばれたって。相手、かなり、渡瀬のこと気に入ってるって」 「――――……有名だっんですか?」 「斉藤は一緒にその会社行った事あって、知ったらしい」 「先輩ってよくそういうことあるんですか?」 「まあ。あの外見だし、気に入られはするだろうけど、普通はあからさまにはしねえからな。あの人は特殊。つか、結婚もしてんのに、マジでなんなんだか」  苦笑いの部長。 「斉藤も、三上が一緒に行ったってオレが言ったら安心してた」 「なんかさっき、そんな話聞きました」 「そっか。まあ……次はもう行かせないから、三上も安心しろよ。今回はまだ異動したてだったし、渡瀬が気軽に良いよって言うから何か決まっちまったけど」 「はい。お願いします」  そう言うと。  部長は、何だか興味深そうにオレを見て。 「なんか……お前らって、なんとなくぎくしゃくしてるかなーと思ってたけど。仲良くなって帰ってきたか?」 「――――……」  さすが。というのか何なのか。  ……鋭い。 「まあ……2泊も一緒だったのでそれなりに」 「じゃあ、良かったな」  ――――……うん。まあ。  そういう意味では、誰も取らないよな。  部長との内緒話を終えて席に戻ると、先輩が、ふ、とオレをまっすぐ見つめた。 「何で三上だけ?」 「あ、別件なので」 「別件て?なんかあったっけ?」 「まあ大したことじゃないんで」 「こそこそ話してるし、なんか変じゃねえ?」 「いえいえ。全然大したことじゃないんで」  言いながら、オレは、クスクス笑ってしまう。 「何笑ってんの?」 「いえ――――……」  ふ、と笑ってしまうと。  先輩は少し、む、として。それから苦笑い。もういいや、とパソコンの方を向いて、メールチェックを始めてる。  ――――……この席に座ってて。  隣の先輩がこっちまっすぐ見てるし。  オレの事気にしてるし。  なんか。  それがすげー嬉しいとか。  言ったら食事無くなるから、我慢だけど。   

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