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第146話◇ほんと綺麗
まあ、そういやそうなんだよな。
……この会社、かなりデカいし、就職試験かなりきついし、そこの営業部。優秀な奴が多いに決まってて。兄貴に限らず、敏い奴が多くて、当然な訳で。
先輩がOKくれて、ばらしても良いってならない限りは、相当気を付けないと、ほんと視線や態度で、何かが察知されてバレてしまうかもしれない。
……少し気を付けよ。
そんな風に思っていたら、晃司が、「そんな事より」と言った。
まあまだ「そんな事」レベルで認識してくれてるなら良しとするか。
なんて思いながら、晃司を見上げる。
「何?」
「今日の昼にさ」
「ん」
「4月に入ってくる新人たちの歓迎会、オレら3年目の奴らで準備しろって言われた」
「えー……マジかー?」
「マジ。……課関係ない、営業部全体の方だからな」
「分かってるよ……あの盛大な奴だろ」
出し物とかめっちゃやるやつだ……。
「そー。ここでやるか店でやるかから、全部考えろだってさー」
はー、面倒くさ。
いつか回ってくるとは聞いてたけど。
「……分かった。今度決めようぜ、ここの同期でとりあえず集まるか?」
「んー。そうしよ。じゃあ近々」
「おー」
晃司が帰って行き、机を綺麗にした所で、部長との話が終わったらしい先輩が、こっちに向かって歩いてくるのが見える。
「――――……」
なんか。改めて見ても。
ほんと綺麗。
――――……何だかな、オレ。先輩の事ムカつくとか言い続けてたくせに。
好きっぽかったとか言われてるとか、すげー何なのって感じ。
はー。
自分でもちゃんと認識してなかったのを、同期にバレてたとか。
恥ず……。どんな言い方で話してたんだっけな……。
「どうしたんだ? すっごい微妙な顔して?」
先輩がちょっと離れた所からオレの視線に気づいてて、何だか首を傾げながら歩いてきて。到着と共に苦笑いで聞いてくる。
「何でもないです」
結局今日も散々色々言ってしまってる上に、ここで最後にほんと綺麗ですね、とか言ったら、今度こそほんとに夕飯行けなくなったら困るし。
あとで2人になったら言おう。
「とりあえず、会社出ましょうか」
「ん」
返事をしながら、先輩がシャツの上に上着、羽織る。
その時の背中とか腰のラインとか。
――――……なんかほんと。綺麗だなぁ。
キスも、触るのもダメとかさ。一応承諾はしたけど。
――――……もう触った感触を、覚えてるから。
まだ何もしてない時に触るなって言われても、我慢できるけど。
触ったらどーなるか知ってるのに、我慢するって、結構キツイなー。
今すぐボタン外して、開いて、肌に触れたいとか。
結構マジで思うし。
……と。
例え冗談で言ったとしても、絶対怒られると思うから、これも言えないけど。
……まあ、冗談ですらないしな。
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