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第145話◇かいつまんで?

 休憩後の先輩は、大分吹っ切ったのか、ため息もつかず、いつも通り普通に仕事をしていた。  やっぱり先輩も、兄貴に隠し通せない気がするって言うんだなと思うと、苦笑いが口元に浮かぶ。  事実を掻い摘んで説明するとか言ってたけど。  何言うんだろ。  ……先輩がなんか最近いまいちそういう気分になれないと悩みを相談したら。  オレが試しにキスしてみます?ってなって色々しちゃって。さらに、翌晩、色々……というか最後までしてしまった。  掻い摘みすぎか。  何か、こう言ったら、結構ひでーかも……。  ……オレは多分元々先輩が好きだった。憧れてたし。もともと仕事出来る人なのは認めてて――――……。まあ、先輩の態度がアレだったから、諦めてたし、ムカついてたし、全部おさえて、気づこうともしてなかったけど。  先輩の事は綺麗だって思ってたし。他の奴ばっかりに 褒めて笑いかけて何なのってのは、思ってた。  そしたら、あんな理由で……っつーか、そもそも全部兄貴のせいじゃねえか……。  もしかしたら普通に最初から仲良かったら、こんな風になってないかも。  2年拗らせてたから、余計、そうなってるのかも?  ……いや違うか。  …………綺麗だって思ってるもんな、オレ……。仲良かったら余計最初から、好き好き言ってたかも……。まあもしもの話してもしょうがねえけど。  まあ、とにかく、想い拗らせてたところで、しかも旅を一緒にして、風呂一緒に入ったりしてる内に、一気にそっちに感情が移行して、あれこれしてたら先輩がめちゃくちゃ可愛くて。もうどうしようもなく好きだと思って。  ――――……ていう所を、ちゃんと言って貰わないと、  ほんっとーに、マジで、「何やってンだよ」と言われる。絶対。  もともと好きで、それが溢れちゃって。  色んな状況が混ざって、ああなった。  掻い摘んで話したら、兄貴から呼び出しがかかるだろーなー……。  まあしょうがねーか……。  まあいいや。  ――――……先輩プレゼン得意だし。どーにかするだろ。  と思うのだけれど。この恋愛とかそういう事に関してのこの人、なんか急に幼い感じになるからなー……。うーん……。 「……かみ? 三上ってば」 「……あ。 はい?」 「寝てた?? 3回呼んだけど」  笑いながらそんな風に言ってくる。 「起きてましたけど。考え事してて」  苦笑いで言うと、先輩がちょっと心配そうな顔をする。 「何か問題あった? 対応困るなら聞くけど?」  仕事の事だと思ってるらしく、そんな事を聞いてくる。 「大丈夫です。あ、すみません、何ですか?」 「もうすぐ18時だけどどうする?」 「オレ、別にいつでも終わらせるので。先輩に合わせますよ」 「ああ。じゃあ、もういい――――……あ、ちょっと部長んとこ行ったら終わり。待ってて」  先輩が部長の所に歩いて行く姿を見送りながら、パソコンの電源を落として、机の上に出していた物を片付けていると、同期の晃司が隣にやって来た。 「お疲れ。帰んの?」  そう聞くと、晃司は、ああ、と言って笑いながら。 「ごめんな、昼行けなくて」 「全然。渡瀬先輩と行ったの?」 「ん」 「珍しくねえ?」 「……まあ」  ……つか、どうしても必要があった時以外では、初だけど。  とは言わず、曖昧に頷いてると、晃司が、にやっと笑いながら、オレに顔を寄せてきた。 「なんかさ、渡瀬先輩と仲良くなった?」 「――――……」 「出張2人で行って打ち解けた?」 「ああ。……まあ」 「そっか、良かったな」 「ああ。そーだな……」  晃司はクスクス笑ってオレを見て。 「渡瀬先輩、大好きだもんな、お前」 「――――……は? なんだよ、それ」 「いや。なんか先輩が冷たいから、嫌いムカつくっぽい事さんざん言ってたけどさ。それって、逆に好きだからムカつくんだろーなーって」 「……別に」  ……ていうかこいつもこういう、セリフの裏読むタイプか。  言えよ、そう思ってたんだったら。 「まあ、直の先輩とは仲いいに越した事ないよな」 「……ああ。まあ」  余計な事はこいつには言うのやめよ。  ――――……少なくとも先輩がばらしても良いって言うまでは、会社では。  ちょっとため息を付きたくなる。

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