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第144話◇吹っ切る
コーヒーを買って、テーブルで向かい合う。
一番端に座ったし、今余り混んでないので、話す事は出来そうだけど。
……話せるかな。
そう思いながら、コーヒーを口にしていると。
「……ごめん」
と先輩が言った。
――――……ごめん?
何のごめんだろう。
――――……やっぱり、オレとは無理とか。
そういう事かな。
……さっきから落ち込んでるっぽい先輩見てて、もしかしたら、そういうことにもなるかなあとも、頭の端っこの方で、考えはしていた。
でも。言われるまでは、考えるのはやめようと、意識の遠くに押しやっていたのだけれど。
…………ごめん、とか言われると。そっちの思考がむくむくと、大きくなっていく。
「……ため息ばっか、ついて」
「――――……」
ああ。そっち……? ため息、ついてたことに?
「――――……ごめん、やだよな」
もう一度謝られて。
大丈夫ですよ、と伝える。
「……オレは大丈夫ですけど…… 先輩は、やっぱり、もう嫌になってますか?」
「――――……だってさー。どう言っても、大事な弟に何させてんだって話になっちゃうだろ……」
「――――……ん?」
今なんかものすごく変なこと言ったなな。
――――……大事な弟に何させてんだ……??
なんか頭がその言葉を受け入れにくくて、固まる。
「……先輩、よく分かんないんですけど」
「ん?」
「今って、何をどう考えてます?」
「ん? どーいう意味?」
「……オレと付き合うとか、やっぱり考えるまでもなくて無しだなーとか。思ってます?」
「……何で?」
「……なんで?」
逆に聞かれた。
さらに意味が分からない。
「……それはちゃんと考えるって言ってるじゃん……?」
――――……なんか困ったみたいな顔して、聞いてくる。
「――――……志樹に、なんて言おうかなって」
「……何を?」
「色々、させちゃったこととか……」
「――――……させちゃったって、やめてもらえますか……」
いまいち、何をどう考えてるのかよく分からないが、もはや、苦笑いしか浮かばない。
なんか――――…… ほんと、可愛いな、この人。
「隠そうとは思ってないんですか?」
「――――……志樹に、隠し通せる気がしない」
はー、とため息。
「さっき話して、もう、そう思っちゃったんだよなー……そう思わない?」
「――――……」
無言で、少しだけ、頷いて見せると、先輩はコーヒーを飲んで。
「だから、何て言えば良いんだろうって、ずっと考えるんだけど……」
「――――……」
「……なんか、それ考えてると、オレってば、ほんとにとんでもないこと頼んで、とんでもないこと、させた、なーって……あれをどう説明したらいいか、分かんなくて」
なんかものすごく恥ずかしそうな顔で、ペットボトルの上に、ずーん、と沈んでいく先輩。
もう、ほんと可笑しいったらない。
「……あのさ、先輩」
「……うん」
「――――……させたっていうの、やめてください」
「――――……」
「むしろ、されたって方だと思うんですよね」
「――――……」
オレのセリフを、ぽかんとした表情で聞いて。
数秒後、カッと、赤くなる。
「別に頼まれた訳じゃないし。オレが勝手にしたんですよ」
「――――……」
「オレが先に兄貴と話しましょうか?」
「――――……」
「オレが迫ってるって話でまとめますけど」
「――――……なんかそれも……ちょっと、夜まで考えさせて……」
「いいですけど……」
くす、と笑ってしまう。
「何で笑うの?」
「――――……先輩、オレと付き合うこと、考えるのは続けてくれるんだと思って」
「――――……」
「兄貴にバレたくないだろうし、いっそ、なかったことにされるかなって、少し思ったんですけど」
「――――……そんな理由でそんな事しないよ」
「うん。だから、嬉しいなと思って」
そう言うと、先輩は、はー、と息をついた。
「……そうだよな、取り繕ってもだめだよな…… いい。オレ、ちゃんと自分で話す」
「――――……オレに迫られてるって言ってもいいですよ」
「……ちゃんと、事実、話すよ。掻い摘んでだけど」
ごくごくごくごく。
ブラックコーヒー、何やら一気飲みしてるし。
「今日ちょっと飲んじゃおうか、三上」
なんだかさっきよりだいぶすっきりした顔して笑ってる。
「いいですよ。早めに飲みに行ければ」
「じゃあ仕事頑張ろ」
吹っ切ったのかな?
――――……よく分かんないけど。
面白いな。
――――……かわいーし。
どう我慢しても、クスクス笑ってしまう。
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