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第143話◇困った顔
「――――……」
なんか。
先輩、昼から、ため息多い。
仕事は普通にこなしてるけど。
電話が終わった時。書類を仕上げて、立ち上がる時。なんかふとした時に、ふ、と短い息を吐く。
……兄貴に、変に思われたとでも思ってんのかな。
まあオレ的にも、正直あれはよく分からない。
何か変に思ったのか。……察知されたのか。
それとも、普通の先輩との夕飯ってだけで、京都旅行の話でも聞こうと思ってんのか。まあ、少しはオレとの事も入るかもしれないけど。
その、「オレとの事」が、どういう意味なのかが、気になるけど、さっきのあれだけじゃ、どちらとも分からない。
普通なら――――……さっきのやりとりじゃ何も察知されない筈なんだけど。
相手が、あの兄貴だからな……。
先輩、明後日夕飯行ったら――――……。
なんかきっと咄嗟の質問とかで口ごもりでもしたら最後。
きっと、カマかけられて、完全にバレるんじゃねえかな。
まあ別にオレは、兄貴にバレようが、知ったこっちゃないし。
兄貴が他の人間にばらすって事も無いだろうし。
だから、本当に別に良いんだけれど。
この調子だと、先輩は兄貴にはバレたくないみたい、だよなぁ。
……まあ。分かるけど。
同期の、一緒に仕事頑張った仲間というか。
……普通に、男の友達、なんだよな。
オレが、昔のこととかも全部知ってる祥太郎に知られても全然良いやと思うのとは、違うんだろうなとも、分かる。
しかもあれだよなー。
弟に手を出しました、みたいな感じになっちゃうってことだよな。
まあ。手ぇ出したのは、オレの方だけど。
先輩は手、出された方だし。
でも、それも言いずらいだろうし。
まあ――――……ため息を延々吐きたくなる気持ちは、ちょっと考えただけでも、かなり分かる……。
まあもちろん、仕事中だからそんな話をするつもりはないんだけれど。
先輩がため息をついてる気持ちが分かるだけに、安易に大丈夫ですか?とも言い難いし。どうしようかなーなんて思いながら、でも、自分の仕事も結構やることはあるので、そこまでそっちも気には出来ず。
「三上」
呼ばれて、先輩を振り返ると。
なんかすごく困った顔、してる。
――――……かわいい。
なんて思ってしまった。
「――――……休憩、行きます?」
そう言うと、うん、と先輩が頷く。
パソコンを閉じて立ち上がると、先輩は、よく分かったね、と言う。
「何がですか?」
「……オレが休憩行きたいって」
「ああ……」
分かると思う、誰でも。今の顔見たら。
事情知らなくてもちょっと、出ましょうかって言うと思う。
多分、オレのバレても良いですよっていうのも、全然救いにならないというか、むしろ、バレてんのかもっていうそっちに思考が向いちゃったんだろうな……。
隣の、ちょっと……いやかなり? 困ってるというか、弱ってる先輩は、なんだかものすごく、可愛いんだけど。
――――……うーん。ちょっとこれは、可哀想な位だし。
どうしてあげたらいいんだかな。
思いながら、エレベーターに乗って、休憩室に向かった。
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