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第148話◇マジで

「……まあ、違うとは思うんだけど、一応聞いとくけど」  祥太郎が、オレを見ながら眉を顰める。 「ただ隣に、ぐーぐー寝ました、じゃ、ねえよな……?」 「そんなの何でお前に報告すんだよ」 「……だよな」  んー、じゃあ、と祥太郎は、更に眉を顰めてる。 「――――……ヤった。ってこと?」 「そう」 「――――……どこまで?」 「まあ。普通に。全部」 「――――……」  視線をしばらく彷徨わせた後。またしばし、固まっている。 「つか、お前、店、戻んなくていいの?」  オレがそう言うと、はー、とため息をつく祥太郎。 「……そんなの今どーでもいいし。……ていいうか、お前、マジで口説いてるとか、言ってんの?」 「マジ」 「……綺麗、とか言ってたのは分かってるけど、何、そういう意味で惚れてたの?」 「複雑で分かんなかったけど、とにかく今はそういう意味」 「男だけど?」 「ああ。男だけど」 「マジで言ってる?」 「マジで」  しつこくて苦笑しながら頷くと。  祥太郎は、ふーん、と言ったきり黙った。 「……ていうか、蒼生は、男、ありだったの?」 「絶対ナシだった」 「――――……だよなぁ?」 「つか、今だってナシだけど。先輩だけアリ」 「――――……」  少し無言だった祥太郎は、プッと吹き出した。 「お前、何、ほんとに、本気な訳?」 「だからさっきっからそう言ってるだろ」 「何、一体何で、そんな事になっちまう訳? むかつくってとこから、いきなり飛び越えすぎだろ」 「――――……もともと好きだったんだよ。あとから考えれば」 「まあ、そっちは分からなくもないけど。先輩、男アリだった訳?」 「……いや、ナシだったと思うけど……」 「あー、お前、何なの、すげー詳しく聞きてぇけどいい加減戻らねえと……」  くっそ、と舌打ちしつつ。  祥太郎が、オレをまっすぐ見つめる。 「今度1人で来い、話聞くから」 「あー……明後日、来れるかも」  先輩、兄貴と約束してたもんな……。 「OK。じゃ店戻るぞ」  祥太郎にそう言われて、ああ、と頷く。 「あ。口説き中ってことは、まだ恋人じゃねえんだよな?」 「ない」 「……でもヤっちゃった訳?」 「……まあ、話してる流れで……2日かけて、って感じ」 「どんな流れだよ……」  女なら分かるけど、とぶつぶつ言いながら祥太郎が店のドアを開けた。  続けて入って、先輩の隣に戻る。祥太郎はいつもの立ち位置に戻る。 「先輩、すみません」  スマホを見ていた先輩の隣に座ると。 「ん。お帰り。どうしたんだ?」 「……ああ、ちょっと話があって」 「ふうん……」  先輩は、くす、と笑いながら、オレを見る。 「何ですか?」 「いや、なんか……」 「総長と副長かー、と思って」  祥太郎とオレを見比べて、先輩は、クスクス笑ってる。 「笑わないでくださいよ」  苦笑いで答えると。 「だって、並んでると、どうしてもあの服着てた写真が重なって」 「はいはい。そろそろ忘れてくださいね」  そう言うと先輩は、ふ、と笑む。  その顔に、しばし見惚れる。  何だかなあ。――――……ほんとに、綺麗に笑うよなあ……。 「――――……先輩って、何でそんな、綺麗なんですかね?」 「――――……は?」 「……会社に居てもずっと思うんですけど。ていうか、オレ、今までもずっと思ってたかも」 「――――……そういうの言うなって、言ったじゃん」 「会社ででしょ。結構我慢しましたよ」 「……っ」 「もう帰ってきたし、別に今周りに居ないからいいでしょ?」 「ダメ」 「何で?」 「恥ずかしすぎるからに決まってるじゃんか」  そんな台詞に、ふ、と笑ってしまう。  嫌な理由が、「恥ずかしすぎる」だもんなあ。  ……可愛い。

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