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番外編【バレンタイン🍫ミニ小説】4/4

「――――……断ったって」 「え?」 「三上が今日、貰うの、断ってたって、聞いて……」 「――――……ああ、うん。まあ……なんとなくね。喜んで貰うのは違うなって思って」 「――――……じゃオレが渡そうって思ったというか」 「……はは。ほんと可愛い」  笑み交じりの声で、耳元で囁かれる。 「キスしてもいい?」 「――――……」 「……クッキーのお礼ってことで、今だけ」 「……うん」  ――――……なんか、もうここで、断れる訳、ない。  三上の瞳が更に優しく笑んで。重なる直前に、オレは瞳を伏せた。 ◇ ◇ ◇ ◇  結構な長いキスにぐったりしてたら。  家に引っ張り上げられて、泊ってってと言われて、あれよあれよと、バスルームに押し込められた。 「――――……」  ――――……まあ、もう、いっか。  と思って、シャワーを浴びて出ていくと。ドライヤーを持ってきた三上に、髪を乾かされる。なんかこの年で髪乾かしてもらうとか、恥ずかしいなあ、と思っていたら、ドライヤーを終えた三上が、笑顔で言った。 「先輩、こんな時間ですけど、お茶しましょ?」 「うん」  さっきのクッキー食べるのかなと思って、椅子に座ったら、三上が目の前に、コーヒーとチョコケーキを置いた。 「ん??」  向かいに座った三上は、クスクス笑って。 「何となく、チョコケーキ買ってたんです。一緒に食べるのは無理かなーとは思ってたんですけど。買っといて良かった」 「――――……これってさどこで買った?」 「会社からの帰り道のカフェです。ほんとは今日陽斗さん誘っていこうと思ってたんですけど」 「このケーキって、クッキーのお店と一緒かな?」 「え?」  不思議そうに三上がクッキーの裏を見て、店名を確認して。 「あ、ほんとだ。同じ店ですね」 「オレ、ほんとはそこでチョコケーキ買おうと思って行ったんだ。売り切れてたんだけど」  何だか、同じもの買おうとしてたんだなーと思うと笑ってしまう。 「もし売り切れてなかったら、このケーキ、4つになってたんだな……」  クスクス笑ってしまうと。 「オレ達って、気が合いますね」  三上が嬉しそうに、そんな事を言う。   「こういうのって、大事ですよね。付き合うのに」 「――――……」  もう、どんだけ優しく笑うんだろう位の顔で、笑われてしまって。  何とも返せない。  ぱく、とケーキを口に入れる。 「――――……すっごい、美味しい」  びっくりする位美味しく思えて、そう言ったら、三上がクスクス笑った。   「今日疲れてたんじゃないですか? 甘い物がすごい美味しいって」 「うん。まあ……疲れてはいたけど」 「良かったです、しょうがないから朝飯にしようかなあとか思ってたんですけど。――――……先輩に美味しく食べて貰えて」 「朝食べようと思ってたの?」 「はい。賞味期限今日までだったので、明日仕事終わってから、先輩に食べさせるわけにもいかないですし」  苦笑いでそんな風に言う三上が、なんか可愛く思える。 「ケーキ2個も、三上食べれるの?」 「んー、だから、ちょっと、うんざりしてたんで」 「――――……」 「良かったですよ、食べてもらえて」  笑いながら、コーヒーを飲んでる、三上。  ――――……なんか、この一緒に居る時の、この感じ……。  三上の、落ち着いてて、優しい言葉や態度が作る、この雰囲気が。  なんかオレ、やっぱり、すごく好きだなあ……。   「……ん?」  じっと見つめてたら、三上にクスッと笑われた。 「――――……なんでもない」  ケーキを口に入れる。 「……先輩さ」 「……?」 「そんなに、好きそーに見られると、困るんですけど、オレ」 「――――……」  そんな風に言われても、そんな事ないとは、言えず。  だって、今ものすごくそう思ってたし。……困ったな。何て返そう。  そう思っていたら。  向かい合わせて座っていた三上が、椅子を動かして、すぐ隣に移動してきた。 「……先輩、キスしても、いいですか?」 「……さっき、したし」 「……も一度許して? キスしたい」 「――――……」 「ダメって言わないならするけど」  頬に触れられて、三上の方、向かされる。  ていうか、こんなの。  ……だめって、どうやれば、言えるんだろ。 「――――……」  何も、言えないでいると。  三上が、ふ、と目を細めて笑って。ゆっくり、近づいてきた。  それでも、何も言えなくて。  ゆっくり、唇が触れる。 「――――……」  触れた唇から、舌がゆっくり触れてきて。少しだけ絡んで。 「甘い……」  くす、と笑って言う。  そっか、三上はまだケーキ、食べてないんだ。  ……三上からは、コーヒーの香りがする。 「――――……」  頬に触れていた手が後ろに滑って、うなじに掛かって、三上の方により引き寄せられる。  舌が、優しくてゆっくりだけど、深く絡んできて。  ぞく、と、背筋に走る感覚。 「……ン……っ」  嫌だとか。やめろとか。  ――――……思う訳ない。こんなの。 すごい、ズルいし。 「……ん……ぅ……」  舌、噛まれて。  ぎゅ、と目をつむると、三上の指が頬をすり、と撫でた。 「……?」  目を開けると、オレを見てた三上が、ふ、と目を緩めて。 「――――……かわい、先輩」  唇の間で囁かれて、また塞がれる。       心臓、痛いんだけど。  ――――……ほんとタラシ。  もうオレの中で、三上は、タラシ決定……。 「……先輩」 「――――……?」  しばらくキスされて、離されて。  呼ばれて顔を見ると。 「来てくれて、嬉しかったです」  嬉しそうに笑まれて。  ――――……元々速くなってる鼓動が、更にどきっと波打つ。 「……うん」  頷くと、三上は、隣に座り直して。  ケーキとコーヒーを自分の前に引き寄せる。 「こんな時間にケーキとか。太りそうですよね」 「三上は太らなそう」 「そうですか?」 「うん」 「てか、先輩のが細いですけどね」  他愛もない話を、たくさんして。  遅い時間のスイーツを楽しんで。  バレンタインは、終わった。  翌日。  昨日一緒に回った佐々木さんから、お礼とお詫びに、と、チョコを差し出されて。好きだからとかじゃなく、お詫びに、という物を断る事が出来なくて、受け取ってしまった。  受け取った瞬間は、ちょっと三上が拗ねてたような気がしたけど。  ――――……その後、別に何も言わないのも三上らしくて。 「これは、お詫びとしてだから……オレ昨日、好きな奴に、チョコケーキ、もらって嬉しかったし」  そう言ったら。  なんかめちゃくちゃ喜んで、仕事頑張ってる姿が、すごい可愛いなあ、とか思ったのは。  ……まあ、内緒。   -Fin- (2022/2/27) ほっこり気分で、楽しんで頂けてたら嬉しいです♡ by悠里♡  

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