173 / 274
番外編【バレンタイン🍫ミニ小説】4/4
「――――……断ったって」
「え?」
「三上が今日、貰うの、断ってたって、聞いて……」
「――――……ああ、うん。まあ……なんとなくね。喜んで貰うのは違うなって思って」
「――――……じゃオレが渡そうって思ったというか」
「……はは。ほんと可愛い」
笑み交じりの声で、耳元で囁かれる。
「キスしてもいい?」
「――――……」
「……クッキーのお礼ってことで、今だけ」
「……うん」
――――……なんか、もうここで、断れる訳、ない。
三上の瞳が更に優しく笑んで。重なる直前に、オレは瞳を伏せた。
◇ ◇ ◇ ◇
結構な長いキスにぐったりしてたら。
家に引っ張り上げられて、泊ってってと言われて、あれよあれよと、バスルームに押し込められた。
「――――……」
――――……まあ、もう、いっか。
と思って、シャワーを浴びて出ていくと。ドライヤーを持ってきた三上に、髪を乾かされる。なんかこの年で髪乾かしてもらうとか、恥ずかしいなあ、と思っていたら、ドライヤーを終えた三上が、笑顔で言った。
「先輩、こんな時間ですけど、お茶しましょ?」
「うん」
さっきのクッキー食べるのかなと思って、椅子に座ったら、三上が目の前に、コーヒーとチョコケーキを置いた。
「ん??」
向かいに座った三上は、クスクス笑って。
「何となく、チョコケーキ買ってたんです。一緒に食べるのは無理かなーとは思ってたんですけど。買っといて良かった」
「――――……これってさどこで買った?」
「会社からの帰り道のカフェです。ほんとは今日陽斗さん誘っていこうと思ってたんですけど」
「このケーキって、クッキーのお店と一緒かな?」
「え?」
不思議そうに三上がクッキーの裏を見て、店名を確認して。
「あ、ほんとだ。同じ店ですね」
「オレ、ほんとはそこでチョコケーキ買おうと思って行ったんだ。売り切れてたんだけど」
何だか、同じもの買おうとしてたんだなーと思うと笑ってしまう。
「もし売り切れてなかったら、このケーキ、4つになってたんだな……」
クスクス笑ってしまうと。
「オレ達って、気が合いますね」
三上が嬉しそうに、そんな事を言う。
「こういうのって、大事ですよね。付き合うのに」
「――――……」
もう、どんだけ優しく笑うんだろう位の顔で、笑われてしまって。
何とも返せない。
ぱく、とケーキを口に入れる。
「――――……すっごい、美味しい」
びっくりする位美味しく思えて、そう言ったら、三上がクスクス笑った。
「今日疲れてたんじゃないですか? 甘い物がすごい美味しいって」
「うん。まあ……疲れてはいたけど」
「良かったです、しょうがないから朝飯にしようかなあとか思ってたんですけど。――――……先輩に美味しく食べて貰えて」
「朝食べようと思ってたの?」
「はい。賞味期限今日までだったので、明日仕事終わってから、先輩に食べさせるわけにもいかないですし」
苦笑いでそんな風に言う三上が、なんか可愛く思える。
「ケーキ2個も、三上食べれるの?」
「んー、だから、ちょっと、うんざりしてたんで」
「――――……」
「良かったですよ、食べてもらえて」
笑いながら、コーヒーを飲んでる、三上。
――――……なんか、この一緒に居る時の、この感じ……。
三上の、落ち着いてて、優しい言葉や態度が作る、この雰囲気が。
なんかオレ、やっぱり、すごく好きだなあ……。
「……ん?」
じっと見つめてたら、三上にクスッと笑われた。
「――――……なんでもない」
ケーキを口に入れる。
「……先輩さ」
「……?」
「そんなに、好きそーに見られると、困るんですけど、オレ」
「――――……」
そんな風に言われても、そんな事ないとは、言えず。
だって、今ものすごくそう思ってたし。……困ったな。何て返そう。
そう思っていたら。
向かい合わせて座っていた三上が、椅子を動かして、すぐ隣に移動してきた。
「……先輩、キスしても、いいですか?」
「……さっき、したし」
「……も一度許して? キスしたい」
「――――……」
「ダメって言わないならするけど」
頬に触れられて、三上の方、向かされる。
ていうか、こんなの。
……だめって、どうやれば、言えるんだろ。
「――――……」
何も、言えないでいると。
三上が、ふ、と目を細めて笑って。ゆっくり、近づいてきた。
それでも、何も言えなくて。
ゆっくり、唇が触れる。
「――――……」
触れた唇から、舌がゆっくり触れてきて。少しだけ絡んで。
「甘い……」
くす、と笑って言う。
そっか、三上はまだケーキ、食べてないんだ。
……三上からは、コーヒーの香りがする。
「――――……」
頬に触れていた手が後ろに滑って、うなじに掛かって、三上の方により引き寄せられる。
舌が、優しくてゆっくりだけど、深く絡んできて。
ぞく、と、背筋に走る感覚。
「……ン……っ」
嫌だとか。やめろとか。
――――……思う訳ない。こんなの。 すごい、ズルいし。
「……ん……ぅ……」
舌、噛まれて。
ぎゅ、と目をつむると、三上の指が頬をすり、と撫でた。
「……?」
目を開けると、オレを見てた三上が、ふ、と目を緩めて。
「――――……かわい、先輩」
唇の間で囁かれて、また塞がれる。
心臓、痛いんだけど。
――――……ほんとタラシ。
もうオレの中で、三上は、タラシ決定……。
「……先輩」
「――――……?」
しばらくキスされて、離されて。
呼ばれて顔を見ると。
「来てくれて、嬉しかったです」
嬉しそうに笑まれて。
――――……元々速くなってる鼓動が、更にどきっと波打つ。
「……うん」
頷くと、三上は、隣に座り直して。
ケーキとコーヒーを自分の前に引き寄せる。
「こんな時間にケーキとか。太りそうですよね」
「三上は太らなそう」
「そうですか?」
「うん」
「てか、先輩のが細いですけどね」
他愛もない話を、たくさんして。
遅い時間のスイーツを楽しんで。
バレンタインは、終わった。
翌日。
昨日一緒に回った佐々木さんから、お礼とお詫びに、と、チョコを差し出されて。好きだからとかじゃなく、お詫びに、という物を断る事が出来なくて、受け取ってしまった。
受け取った瞬間は、ちょっと三上が拗ねてたような気がしたけど。
――――……その後、別に何も言わないのも三上らしくて。
「これは、お詫びとしてだから……オレ昨日、好きな奴に、チョコケーキ、もらって嬉しかったし」
そう言ったら。
なんかめちゃくちゃ喜んで、仕事頑張ってる姿が、すごい可愛いなあ、とか思ったのは。
……まあ、内緒。
-Fin-
(2022/2/27)
ほっこり気分で、楽しんで頂けてたら嬉しいです♡
by悠里♡
ともだちにシェアしよう!