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第181話◇甘すぎ

 ちょっと美味しそうな定食屋を見つけて、少し並んでいたので、先に並んでから、先輩に場所と店の名前を送った。  暫く並んでから店内に案内されて、後から来ると伝えて2人席に座り、おしぼりで手を拭いた所で、先輩が入ってきた。すぐに目が合うと、あ、と笑んで、店員にあそこ、と伝えてる。 「三上、ありがと」 「いえいえ、ちょうど良かったです」 「座ったとこ?」 「はい」  上着を脱いで、ふー、と手で顔を仰いでる。 「暑いですか?」 「うん。ちょっと小走りで来ちゃったから」 「急いでくれたの?」 「だって、待たせてるから」  言いながら水を飲んでる先輩。 「――――……」  あー。可愛い。確かにちょっと顔赤いし。パタパタ風起こしてる動作も、可愛くしか見えない。  ほんと可愛い……。  くそ。誰も見てなきゃキスするのに。 「何食べるか決めた?」 「まだ。メニュー見ようと思ってた所でした」 「そっか」  言いながら、オレとの間にメニューを置いて、眺める。 「定食屋さんにしたんだ」 「朝パンだったし」 「うん。なんか色々美味しそう。三上、何にする?」 「んー……オレこの、肉野菜炒めが食べたいな。あーでも……ヒレカツ定食もいいなー……」 「ふーん……」 「どっちがいいかなぁ……」  野菜食べた方がいいかなーと思うけど、ヒレカツもうまそう。  と思っていたら。 「じゃあオレがヒレカツ定食頼むから半分こしよ」 「え、良いんですか?」 「うん、良い。一緒に食べよ? あ、すみません」  にっこり笑顔で可愛く言って、 側を通りかかった店員さんに声をかけて、注文している。  あー。なんだろ。……だめだ。可愛い。  言い方、可愛いなあ。会社で見てる時は、こんなじゃないのに。 「半分こ、良いんですか?」 「良いよ? あ、嫌だった?」 「嫌な訳ないでしょ」  笑いながら返すと、よかった、と笑ってから。 「他の奴と定食のおかず半分こなんて、しないから。三上だけだからね」 「――――……」 「半分こ、変なのとか、思うなよなー」  とか言いながら、楽しそうに笑いかけてくる。  ……もう、ほんとこの人……。  誰とでも半分こするとか、そんな事は思ってない。  ――――……三上だけだからね、とか。敢えて言う必要なんかもないのに。  ていうか、オレだけだから、とか。  そういうの言われると。  ――――……もー、可愛くてしょうがないし。 「陽斗さん」 「んー?」 「今日オレ、同期と話し合いに行っちゃいますけど…」 「うん」 「――――……もし嫌じゃなかったら、鍵渡すから、オレんち行っててくれません?」 「え?」  少しびっくりした顔で、オレを見て、瞬きを繰り返してる。 「三上、居ないのにオレが勝手に上がってるの?」 「シャワーとか浴びて、ゆっくりしてくれてていいので」 「――――……変じゃない? 勝手に……」 「勝手じゃないですよ。オレが鍵渡すんだから」 「――――……でもなー……」  先輩が悩んでる間に、食事が運ばれてきて、並べられている間、少し黙る。  店員が居なくなって、すぐに。 「ほんとに、居てほしいの?」 「居てほしいです」  ここぞとばかりに、思い切り頷くと。先輩は、苦笑い。 「とりあえず食べよ? ヒレカツ、置いていい?」 「あ、はい」  オレの皿にヒレカツを乗せながら。  くす、と笑って。 「1人で部屋で待ってるとか。三上がどうしてもなら、いいけど」 「どうしても」 「――――……分かった、いーよ」 「えっ。――――……良いんですか?」 「え。だって――――……冗談だった?」 「いえ。本気でしたけど」 「てか、何なんだよ」  クスクス笑う先輩。  いや、だって。  もうほんと。甘いよな。オレに。  すげえ我儘な事、言ってんのに。    めちゃくちゃ嬉しいけど。

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