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第180話◇やばすぎる

 朝は超幸せだったけど、会社に来たら今日はかなり忙しかった。  担当の営業先から色々問い合わせの電話やメールが続けて入ってきて、午前中から対応に追われた。   「三上はそっちの会社行って。オレがこっちの2社行くから。別でいいよな?」  先輩が片方の資料を手に持って自分の机に置くと、立ち上がって、上着に袖を通した。 「はい」  いつもは割と2人で行く事が多いんだけど、忙しい時は手分けする。  今日は一緒には行けそうにない。残念。 「じゃあな。あ。多分オレ昼戻れないから好きに食べて」 「はい」  ――――……ちょっと前まで、昼を一緒に食べたりもほとんどしなかったから、わざわざこれを言ってくれるという事自体が嬉しいのだけれど。  特に何の感情も無い感じで、そう手早く言うと、先輩は最後オレの顔をちょっと見て、じゃあな、と言って離れて行った。  何となく視線で見送るけど、先輩は急ぎ足で歩いて行って、ドアを出て外に行ってしまった。  会社で仕事をしてて、特に忙しい時。可愛い先輩は、どこにも居ない。  オレと居ると可愛く見える顔は、多分表情が全然違うからだと思うんだけど、可愛いじゃなくて、ひたすらカッコいいというか、普通に仕事のできるイケメン。て感じ。そりゃあ、モテるだろうなぁと、思う。  入社して以来、先輩のマンツーマンをいいなー、と言われる事が多々あった。  まあ。2年間のオレは、納得してなかったけど。仕事はいいけど、人としてどーなんだ、とか、思っていたけど。  今となっては。――――……ほんと、マンツーマンが先輩で良かった。  でも会社のあの人しか見てない人達にとってみたら。  狼狽えたり、赤くなったり、見上げてきたり。  ――――……そんな事するなんて、きっと誰も思わないだろうな。  寝る時、寒いとか言って、一緒に寝ようとするとか。  朝、寝ぐせがあんなに可愛いとか。  ……いや、誰にも見せたくないし、可愛いのを気づかれたくもないからいいんだけど。  でもなんかオレだけっていうのが。  ――――……いい気分なような。なんか見せびらかしたいような。  はー。複雑。  そんな事を頭の隅で考えながら、メールでの問い合わせに返信終了。  よし。行くか、外回り。  立ち上がって上着を着て、ボードに外回りと表示してから、先輩の名前の所も確認。  早く行って戻ってこよ。  午後は一緒に仕事出来るといーけど。  そんな風に思って、適当に挨拶しながら、部室を後にした。 ◇ ◇ ◇ ◇  無事対応終了して、営業先を出て駅までの道を歩く。  車だと日中は混む道なので、今日は電車でここまで来た。  どっかで飯食って帰るか、と、辺りを見回していた時。  スマホに着信。  あ。先輩。 「もしもし?」 『あ。三上? もうそっち終わった?』 「はい。先輩の方は?」 『意外と早く片が付いて、両方済んだよ』 「よかった。うだうだ言われませんでした?」  先輩が引き取ったひとつ、結構めんどくさいオヤジが居る。  敢えて言わなかったけど、きっとそっち、選んでくれたんだと思うからちょっと気になってた。  すると、先輩は、クスクス笑って。 『まあ、大丈夫だったよ』  ――――……まあ、あのおっさんも、先輩の事好きだからな……。  て思って、ちょっとムカッとして。  ……いやいや、あんなおっさんにまで妬くとか無い、無いから。  自分の思考にちょっと焦ってると。 『三上、今どこ?』 「今、渋谷の駅前」 『じゃあ、そっち行く。15分位で着くから。飯食おう?』 「え」 『何?』 「食べれるんですか?」 『だって、オレ終わったし。お前無理なの?』 「無理じゃないです!」  急いで否定すると、先輩はクスクス笑って。   『良さそうな店探しといて、行くから』 「了解」 『いいとこあったら、送っといて』 「分かりました。待ってますね」 『うん』  電話が、切れた。  つか。  ――――……これ、飯食う位で、こんな嬉しいとか。ヤバすぎる。   (2022/3/8)

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