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第191話◇可愛いしか。

「……キスしていいなら、舌、ちょうだい」  そう言って、触れると。何だかオレの服を握り締めたりする。  つか。  可愛い。  ――――……どうしよう。可愛すぎて。  服握られる位で、可愛さの極致にあるのに。  ゆっくり、舌、触れさせてきた。  ああ。もう。マジでどうしよう。  可愛すぎて、少し笑ってしまう。  深く深く、舌を絡めてキスすると。  先輩は、きつく瞳を閉じた。 「――――……ン、ふ……」  漏れる声が。  ――――……たまんない。 「――――……はるとさん……」  自分が、興奮してるのが分かる。  息が熱いし。   「……っン……は――――……」  先輩が好きなキスの仕方で、仕掛ける。  舌、吸うと。  耐えられないみたいに、声が漏れる。 「……ふ……」  掴んでる服を更に、ぎゅと握られて、先輩を見ると。  ぎゅ、と伏せた瞳から涙が零れた所だった。  ――――……また、泣いちゃったなぁ……。 「陽斗さん……」 「――――……?」 「……また泣いてる」  涙目が可愛くて。笑ってしまう。  めちゃくちゃ、性急にキス、してたのに。  ちょっと緩めてしまう。  ――――……だって、なんか。  すげえ、可愛い。  涙を指で拭うと。じっと、オレを見つめてくる。 「あー、かわいー……なんで、そんなに可愛いのかな」  ぎゅ、と抱き締めてしまう。 「なんかさ」 「……?」 「仕事してる時は、陽斗さんて、別に可愛い訳じゃないんですよ」 「――――……」  つい、そんな事を伝えてしまうと。  ちょっと何か言いたげな顔で、オレを見上げてくる。 「むしろカッコいいしね……」  少し笑ってしまいながら、そう言ったら。何だか、ちょっと嬉しそうな表情になった。  ――――……まあ、そうか。  可愛いよりは、先輩は、カッコいいの方が、嬉しいのか。  ふ、と笑って。  でも――――……オレにとっては、すっげえ可愛いけど。  なんて思いながら、髪を撫でたら、まだ乾いてなくて冷たくなってる。  キス、名残惜しかったけど、乾かすのが先だなと思って、ドライヤーを持ってきて、ソファの所で先輩の髪を乾かす。  気持ち良さそうに、瞳閉じてて。  なんか、任せてくれるのがまた可愛いし。  ――――……つか。女の子の髪も乾かしてあげた事なんか無いのに。  何でオレは、男の髪を、こんなに幸せな気分で乾かすかなぁと、かなり不思議に思わなくもないのだけど。  ……可愛すぎて、幸せ過ぎるので、もう否定しようもない。  さっき同期に言った、「オレ史上、ダントツキレイで可愛い」が、もう本当に我ながらピッタリな表現過ぎる。 「はい、OKですよ」 「ありがと」  と、見上げてきた先輩が、今度は乾かしてくれると言ってくれたので、交代した。  なんか、やたらフワフワと触られて。  もう乾いてるんじゃないかなーと思いながらも、ふと、先輩を見上げたら。  何だかめちゃくちゃ楽しそうな笑顔で、オレの髪に触れてて。  クスクス笑ってしまった。 「……何?」 「いやなんか――――……楽しそうですね」 「……うん。なんか、楽しい」  ああ、もう。ほんと、可愛い。  何なんだろうな。この可愛いの。   ――――……他の奴の前でも、こんなに可愛いのかな。  困るなー、それは。  オレの前でだけ可愛いなら良いんだけど。 「ありがとうございます」  オレは、先輩の手からドライヤーを受け取った。片付けて戻ると、先輩がなんだか、すごく楽しそうで。  ――――……なんか。そんなに楽しそうでいてくれると。  呼んでよかった。と、心底思ってしまう。  昼に思いついた時は、オレ、無茶な事言ってるよなーと思いながらの提案だったのだけれど。  さっきは、帰ってすぐ抱き締めてほしかった的な態度だったし。  オレにドライヤーかけて、めちゃくちゃ楽しそうだし。  今も、なんか、すごいニコニコしてるし。  ああ。もう。  マジで、可愛すぎる。  さっきから、オレ。  語彙力、完全に無くなってる。  可愛いしか、出てこないし。  ……困ったな。  とりあえずちょっと落ち着こう。  そう思って、コーヒーを飲むか聞いてみる事にした。

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