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第225話◇ネクタイ

 無意識に人を煽りまくる先輩との朝食を何とか終えて、片づける。 「三上、そろそろ、オレんちに行っていい?」 「ですね。出ましょうか」  オレのマンションを出て、先輩の家に向かって歩き始める。  少し早いから、人も少なめ。並んで歩きながら、先輩を見下ろす。 「二日酔いは? 少し痛いって言ってたのは、もう治りました?」 「大丈夫だよ」  ふ、と笑んで、先輩がオレを見上げてくる。 「ごめん、なんか昨日は志樹と色々話しながら飲みすぎちゃったみたいで」 「――――……」  昨日は、きっと、兄貴との話に結構ドキドキしてただろうし。  しょうがないのも分かってる。 「昨日飲みすぎちゃったのは、分かるんですけど」 「けど?」 「あんまり飲み過ぎないでくださいね」 「うん。ごめんな」  その「ごめんな」に、ちょっと引っかかって、先輩を見つめた。 「あ、なんか違います。オレは、陽斗さんが可愛くなり過ぎちゃうから、飲まないでって言ってますからね」 「え?」 「また、迷惑かけるとか、よく分かんないほうで、ごめんって言いましたよね?」 「……普通、そっちだよね」  先輩の言葉に苦笑いしながら、オレは首を振った。 「なんか、とろんとしてて、可愛いから。しかも――――……なんか、前より余計可愛くなってるって気がするし」 「――――……三上、意味わかんない」  そう言ってから、む、と口を閉じてる。 「オレが居る時は飲んでいいですよ、連れて帰るから」 「――――……」  何言ってんの、ほんと。と、先輩は苦笑い。 「オレのが年上なんだけど。しかも結構」 「……でも可愛さで言ったら、陽斗さんのが可愛いから」  そう言うと、先輩は、苦笑い。 「なんか、ほんと、おかしいと思うんだけどさ。オレを可愛いとか言うの、三上だけだと思うんだけと」 「――――……」  確かに、可愛いというのは、あんまり聞いた事がない。  皆、カッコいいって言うしな。 「――――……そんなことは、ないと思います」  オレが言うと、先輩は首を傾げて、クスクス笑う。  絶対可愛いよな。  オレだけ? ……そんな訳ないと思うんだけど。  可愛いという言葉が、言い辛いってだけの話じゃねえのかなぁ。  先輩の家に着くと、座ってて―と言われて、先輩が奥に消えた。  ソファに腰かけて待ってると、シャツとスーツを着替えて、先輩が戻ってきた。  上着とネクタイを椅子に掛けて、ボタンをはめてる。 「ちょっと貸して」  オレは立ち上がって、そのネクタイを手に取った。ボタンを留め終わった先輩と目を合わせる。 「つけさせて?」 「――――……いいけど。人の、出来る?」 「分かんない。人のやるの初めてだから」 「男は普通はそうだよね」  そう言うと、クスクス笑って、先輩はオレを見つめる。  後ろ襟の下に通して、前に回して、先輩の前でクロスさせる。 「――――……こうかな……あ、逆か」  やっぱ反対からだと難しいな、と呟くと、先輩が少し、笑う。  ――――……なんか。近い、な。  意識しないでやったけど。  やたら、近い。  すぐ真下に先輩が居る感じ。  ――――……あー、なんか。  上から見ると、睫毛、長い。  ……可愛いなあ。  何か全然関係ない方に気を取られまくりながら、何とか締め終えた。 「……できたよ」  オレが言うと、ふと顔をあげて、オレを見る。 「ありがと、三上」  真下の先輩に。我慢できなくて。  唇を、キスで、塞いでしまった。

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