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第227話◇飽きる訳。

 うまく逃げられた気がするけど、まあ時間的にも仕方ないので、そのまま出社した。先輩は、会社に近付くにつれ、どんどん会社モード。  多分無意識なんだろうな。  姿勢も余計に良くなる気がする感じ。  今日は朝一、報告会議。  先輩が司会。あれこれ説明しながら、人の意見をまとめていく。  この会議の司会は、 順番が決まっていて誰もがやるんだけど、先輩がやるとすごく効率が良いと言うか、早く会議が終わる。それは皆もいつも同じことを言っていて、渡瀬さんってすごいよなーと、同期はよく言う。  まあ今までのオレは、すごいけど嫌い、とか思ってたんだけど。  ……もはや大好きを自覚してしまった今となっては、本当にカッコいいなと、思ってしまう。  今日も会議が早めに終わって、皆会議室を出て行く。  司会の人が、部屋の最終チェックと電気を消して、戻る。  皆が戻って行くのを、オレも一緒に待ちながら、一緒に椅子を整える。  最後の一人が部屋を出て行って、ドアがしまると、二人きりの空間。 「陽斗さんが司会だと、早いですよね」 「そう?――――……ってそれより、名前で呼ぶなよ、三上」  じ、と睨まれる。  ……あ。しまった。  なんかもはや陽斗さん呼びの方がデフォルトになりつつある。  まあ別に、先輩を名前で呼んじゃいけないという決まりがある訳でもないし。たとえそれを聞かれたからって、オレ達がそういう風な付き合いをしてるとか、そんな事、きっと誰も思わないと思うけど。  まあ、陽斗さんは、他の人の前でオレに名前で呼ばれたら、めちゃくちゃ焦りそうだからな。   「……気を付けますね」 「ん」  頷きながら微笑まれると。  ――――……あぁ、可愛いな。と、また思う。  オレ、ダメだな、頭ん中。  今、この人の事しか頭にないかも。 「――――……あのさ」  ドアから離れた先輩の近くに行って、見つめる。 「明日は、オレのとこ、来てくれるんでしょ?」 「――――……」  先輩はオレの質問を聞いて、数秒止まった後。  かあっと赤くなった。 「……っそういう話も、無し」 「――――……」  ……ダメだー、もう、なんなの、この人。  明日良いよって言ったの、自分なのに。ていうか、初めてじゃないし、女の子とだって経験ある、普通の大人の男なのに。  そんな赤くなられると、もう可愛くて、しょうがないんですけど。 「……そうじゃなくてさ。――――……今日はどうするのかなと思って」 「……今日?」 「うん。今日。用事ありますか?」 「――――……」  じっとオレを見つめてから、先輩は苦笑い。 「そんなに毎日ずーっとオレと居たらさ」 「……?」 「飽きない?」 「え」  飽きる? ……訳ないじゃん、と思った瞬間。  ドアが開いた。部長が現れた。 「渡瀬、ちょっと来て」 「あ、はい」  先輩がオレに視線を向けるので、オレは頷いた。 「ここ閉めときますから」 「悪い、頼む」  先輩はそう言うと、部長と一緒に部屋を出て行ってしまった。  ――――……ちょっとため息。  もー……。  こんなに好きって言って、一緒に居たいって言ってんのに。  何なんだろうあれ。  飽きる訳ないじゃん。   「――――……」  まあきっとあれは。  ――――……飽きる訳ないじゃん、と、キスしたら。  きっと、嬉しそうに笑うやつ。だと思うけど。  ――――……ほんと。  ……かわいーなあ……。  ――――……あ。  こんな事してる場合じゃなかった。  取引先、電話かけなきゃいけねーのが幾つもあったんだっけ。  後でまた話そ。    椅子を綺麗に整えて、電気を消して、会議室を閉めた。    

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