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第228話◇ハプニング。
ふと時計を見ると、十二時を回っていた。
忙しくてあっという間だった。
あの後しばらくして部長の所から戻ってきた先輩も忙しそうで、ほとんど会話する事も無く午前中が終わった。
周りがバラバラと昼食に立ち始めて、その空気に気付いた先輩が、パッとオレを振り返った。
「三上、ご飯行ってきていいよ」
「――――……」
一緒に行けないのかな、と思ったら、先輩が続けた。
「オレ、午後部長と出るからさ。帰るの夕方かも」
「分かりました。お昼は?」
「部長が一緒に食べようって言ってたから、多分もうすぐ出る」
「分かりました」
残念。
――――……あれ。そういえば、今日の返事まだ貰ってない。
飽きない?なんて聞かれたままだ。
「先輩、今日は……」
そこまで言って、まだ周りに人が残っているので濁していると、先輩は、悟ったみたいで、む、と唇を閉じた。
「考えとくけど……飽きないかなっていうのも考えといてよ」
「つか、それは……考えるまでもなく、飽きないですけどね」
「――――……」
何か言いたげな顔で、オレを見る先輩。
その時、同時に違う方向から、オレ達は呼ばれた。
「三上、昼行く?」
「渡瀬、行けるか?」
オレが、ああ、と頷いて先輩の方に視線を戻すと、先輩も返事をしながら立ち上がる所だった。
先輩の視線もすぐにオレに戻ってくる。
「何か、仕事で聞いておきたいこと、ある?」
「いえ。……仕事では無いです」
その答えに、先輩は少し止まった。
「そっちは考えとくから」
そう言うと、椅子に掛けてた上着に腕を通すと、鞄を手に取った。
「また連絡する」
「はい。いってらしゃい」
「ん」
最後に、にこっと笑って、先輩はオレから視線を外すと、部長と一緒に歩き出した。
オレもパソコンを閉じると立ちあがって、同期と並んで、社食に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――――……」
……疲れたな。
午後は取引先を回って、帰ってから書類作成とメールや電話対応。
あっという間にまた時間は過ぎて、今十八時。
……遅いな、陽斗さん。
スマホが鳴って、またどこか取引先かと見たら。
待ち望んでいた人の名前。急いで「もしもし」と出ると、笑みを含んだ声が聞こえた。
『あ、三上? 今平気か?』
「お疲れ様です。大丈夫です」
『どう? 仕事』
「もうだいぶ片付いてきてます」
『そっか。午後、何も問題なかった?』
「大丈夫です。……先輩の方は?」
『んー、部長と一緒に色々回ってたんだけど……』
「まだ回ってたんですか?」
『そう。部長の古い知り合いと、今度取引する事になったみたいでさ。オレがそれ、担当する事になりそう』
「そうなんですね」
『三上にも手伝ってもらうから』
ふと笑ってる気配に、頷く。
『ただ、今さ、オレ栃木に居るんだけど』
「え」
『工場とか色々見に来てて……』
「これから帰ってくるんですか?」
『それがさ、色々あって、今日こっち泊まる事になった』
「……部長とですか?」
『だって部長と来てるから、当たり前――――……あ、ごめん、部長来た。また後で連絡する。キリ良い所で上がって』
「わかりました」
何とか言った所で、電話が切れた。
――――……。
――――………………。
うん。仕事。
まあ。
……きっと、何かしら、事情があるんだろう。
そういえば、全然意識してなかった時にも、先輩がどっかに泊りだった事、あったしな。
あの頃は居なくてちょっとすっきりしてた位だったから、気にしなかったけど。
「――――……」
――――……まあ、部長と何かあるはずが無いし。
――――……。
無い無い。有るはずがない。
いやでもなー……あの部長も、ずいぶん遊んでそうな……。
――――……先輩が可愛く見えて、とか。
「――――……」
無い無い。
肘をついて、額を乗せて、うんうん悩んでいると。
「……どした?」
「あ、伊藤……いや。ちょっと……」
後ろから掛かった声に、はっきり言えずにいると。
「頭痛?」
「……まあ、そう」
ちょうど良い理由を言ってくれたから、頷いた。
「分かる分かる、ずっとパソコン触ってるとなるよなー、きりの良い所で早く帰れよな?」
「……ああ。分かってる」
「あれ、渡瀬さんは?」
「ああ……出張」
「ああ、だから午後見なかったのか。じゃあますます早く帰っちゃえば?」
「そうだな。……お疲れ」
「じゃーなー」
伊藤と別れてからも、しばし固まっていたけれど、スマホを取り出した。
「今日、アルコール禁止。守ってくれたら明日いっぱい奢るから!」
そう入れて、送信した。
つか何入れてんだ、オレ。
――――……ため息。
送信取り消しできるかなと思った瞬間、既読がついてしまい。
ますますため息をついた。
(2022/6/27)
後書き。
……前回、渡瀬を村瀬と書いてた事に何人の方がお気づきに…。
教えて下さった方々、ありがとうございます……。
しかも一回目、一個しか気づかず、 もう一個ありますと…(笑)
村瀬は智也で、優月の幼馴染です……。
恋なんかじゃないに出てくるのですが……
前にもまちがったんですよね私。すみません( ̄▽ ̄;)。
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