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第244話◇普通の可愛い?
つか、この言い方って――――……。
「あのさ、陽斗さん」
「……ん?」
「……そんなに、昨日寂しかったんですか?」
「え――――……あ、いや」
改めてまっすぐ聞くと、ちょっと膨らんでいたのを一瞬でほどいて、なんだか急に照れ出した。
「べ……別に。一晩だし。……平気だけど。ちょっと……そう思っただけ」
言いながら、注いでたお茶をぐびぐび飲み込んでる。
「とりあえず、早く、ごはん食べよ?」
もうなんか。
正直、夕飯なんかどうでもいいんだけど――――……でも確かに、食べないと途中で、ってのは分かる気がする。
「――――……」
はー。……とりあえず、早く食お。
オレが食事の用意を急ぎ始めると、ちょっとホッとした顔をしながら、箸を運んだりし始めてる。
こんなに、触れたいのを耐えながら、食事するとか、初めてじゃねえかな。
……まあでも、まさか思いのまま襲いかかるなんてできないし。
マジで、落ち着け、オレ。
なんかこれ、またしても、苦行みてえだけど……。なんかオレはこの人と居ると、いつもこんなような気持ちさせられてるような……。
そう思いながら、となりにいる可愛すぎる人に目を向ける。
「ん?」
にこ、と微笑まれて。
毒気を抜かれる。
――――……マジで落ち着こう。
何なら、どんだけでも待つって思ってた位なんだし。
それに比べたら、たかが食事の時間位……。
……あーでも、気持ちがオレに向かってくれるのを、待つっていうのと。
いいよ、て言われてるのに、触れるのを我慢するのとは。
……これ、全然違うよな……。
溜息をついてしまいそうだが、絶対聞こえるので我慢しながら、レンジをスタートさせる。
「さっきも言ったけどさ」
「はい?」
顔を上げると、楽しそうな先輩。
可愛くて、自然と笑ってしまいながら頷くと。
「取引先の人と食事して、別れてから高速乗ったんだよね。だからさあ、サービスエリアついた時はお腹空いてなくて。今日のとこも食べたいもの色々あったんだけど、全然食べられなくてさ」
「それでメロンソフトだけになったんですか?」
「そうそう」
ふふ、と笑いながら頷く。
「だから、三上と今度行くときは、めちゃくちゃお腹空かせて行こうね」
なんて、とてつもなく、のんきなことを、可愛く言ってる。
――――……あ、なんか大分落ち着いてきた。可愛すぎるおかげで。
さすがに、これには欲情はしないらしい。良かった。まだ正常で。
「そんなに一度に食べれますか?」
「うーん、多分結構いけるんじゃないかなあ」
「そんな大食いでしたっけ?」
「んー……じゃあ、あんまりがっつりのを食べないで、小さめでおいしそうなのを、色々食べる」
……なんか、ほんと、可愛いよな。
笑顔で言う先輩に、自然と笑ってしまう。
レンジが温め終了の音を立てたので、中から出してカウンターに置いてから、先輩を見つめる。
「良いですよ。明日ほんとに行きますか?」
「んー……明日か~」
すぐ頷くかと思ったら。
食事をテーブルに運びながら、考えてる風な返事。
「明日決めてもいい?」
「いいですけど……」
そういえば夕方聞いた時も、後で決めるとか、そんな感じだったな。
明日は予定入れてないって言ってたけど……。
「そのまま温泉行くのもいいなーとか……贅沢なことも思っちゃうんだけど」
「うん。……だけど??」
「……んー……でも、後で決めよ?」
「……ん。まあ。分かりましたけど」
なんだろ、とは思いながらも、なんとなく頷きながら、温めた食事をテーブルに運ぶ。
「とりあえず食べちゃいましょうか」
「うん」
向かい合わせに座って、いただきますと手を合わせる。
「昨日部長と二人で、どうでした?」
「んー? うーん、どう……って言ってもなあ、普通?」
「気は使わないんですか?」
「まあそれなりに使うけど……まあ、あんな感じの人だからね。娘さんの写真見せてもらったりしたよ。可愛かった」
クスクス笑いながら、目を細めてる。
「二週連続で遠出で大変でしたね」
「あー……そういえば、そうだね……そっか、先週も、だっけ……」
「忘れてたんですか?」
しみじみ言ってる先輩に笑いながらそう聞くと。
「いや……なんか三上とのは、仕事ってより……旅行みたいだったし。楽しかったから……別物として思ってたかも……」
そんな風に言って、にっこり笑う。
……この、可愛い、は。
…………ものすごく、押し倒したいの、可愛いだよな。……って違うか?
違うのか? これは普通から見たら、ただ可愛いだけ?
オレがやっぱり正常じゃないとか??
…………いやもうなんか。どっちでもいいから。
抱き締めて、キスしたいんですけど。
落ち着いたと思ったけど。
今の状態で、にこにこ可愛い先輩との食事は、やっぱり結構な苦行で。
何とか食べ終わって、やっと片付けた。
「三上、コーヒーとか……」
「あー……ごめん、無理」
そう言った先輩を、引き寄せて、ぎゅ、と抱きしめる。
「コーヒーは……明日淹れますから」
少し離して、頬に触れて――――……まっすぐに、見つめる。
「ベッド、行こう?」
ちょっと緊張した顔をした先輩に、その後、ニコ、と笑って頷かれると。
もう我慢できなくて、その場で、深く、唇を合わせた。
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