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第252話◇ピロートーク

 なんか、めちゃくちゃ、感極まって、泣くとこだった。  ……あー、マジでヤバ。    上がった息を整えてから、色々汗とか拭いて、水を持ってきて飲ませてあげた。で、今抱き締めて、ベッドに転がったところ。 「なあ、みかみぃー……」  水は飲ませたけど、掠れた声が、色っぽいなぁ。可愛いなあ。  と、もはや、それしか浮かんでこないオレ。  あ、また「三上」に戻ってるし。  そう思うと、それもまたなんだか可愛い。  ……セックスん時だけ、蒼生って呼ばれるのだとしたら、普段、もし、どこかで気まぐれに蒼生って呼ばれた瞬間に盛るオレが出来上がったりして……。なんて、馬鹿なことも頭に浮かんでくる。 「なあ、三上ってば……」  オレの肩の下あたりに頭をのせてる先輩は、オレが返事をしないので、少し顔を動かして、オレを見上げようとしてくる。サラ、と髪の毛がオレの顎や頬に触れてきて。それだけで、感じてる愛しさが倍増。……ヤバすぎる。可愛い。……というか、これが可愛すぎると感じるオレがヤバいのか……? 「ん、何ですか?」  再び組み敷いて、キスから始めようかと思ってしまうが、一応踏みとどまって返事をすると。 「……足っていうか……」 「はい……?」 「……股関節……」 「うん?」 「そこらへんが、痛い……」 「――――……」  それって、と言おうとしたけど、なんだか変な空気が喉に入って、むせる。  ゲホゲホしていると、先輩が、少し揺れて、笑ってるのが分かる。 「どしたの」  クスクス笑ってそんな風に聞いてくる。 「って……ああ、そうだ、なんか前の時も言ってましたよね、そこらへん痛いって」 「うん。言ってた……よく考えるとさぁ」 「はい」 「あんなに脚ひらくこと、普段、無いからさぁ……」 「――――……」  あんなに、脚、開く。  というセリフで。  さっきまでめちゃくちゃ脚、開かせて、体をそこに割入れて。  ……と、自分がやっていたことがまざまざと脳裏に。 「三上?」 「え?」 「なんで固まってんの?」  きょとんした顔で、見つめられる。 「……いえ。あーと……シップ貼ります?」 「いやだよ、こんなとこにー。カッコ悪いし。絶対耐える」  即答されて、笑ってしまう。  ――――……可愛い。 「何笑ってんの。やだろ、三上だって。オレがここにシップ貼ってたら」 「んー……でも痛いなら。あ、オレ、シップの匂い好きですよ?」 「そういう話じゃないでしょ」  クスクス笑って、先輩がオレを見上げてくる。  さっきまで、あんなにやらしく乱れてたのに、もうかけらもそんなのは無い。  ……でも、会社での、凛としたカッコいい先輩な訳でもない。  なんかちょうど中間というのか。  柔らかく緩んで、ちょっと甘えてくるみたいな感じ。  ピロートークって、大事なのはなんとなく分かってたけど。実はあまりやってきたことがない。……女が喋ってるのをなんとなく聞いてたことはあるけど。  もしかしてオレ、人生初って位、それを楽しんでるのではないだろうか。 「……三上」 「はい?」 「オレね、別にね、経験少なくないんだよ……自慢じゃないけど」 「……自慢じゃないんですか?」 「……自慢ではない」 「うん……」  何だか可笑しな間に、クックッと笑いながら、「それで?」と聞くと。 「結構、経験あんだよね、女の子と」 「うんうん」 「――――……」  それきり、しばらく黙ってしまう。  つい今さっきまではオレを見上げてきていたのに、顔は俯いてて、すり、と前髪のあたりがオレの顎に触れてくる。可愛いなあと、その感触を一人楽しみながら、続く言葉を待っていると。 「……でも、お前とすんのが、一番気持ちいいって……」 「――――……」 「ほんと、どういうことなのかなあ……?」  ……どういうことって。オレ、今、それは純粋に、理由を聞かれてるのか?  それとも、もっかいしようって、誘われてんのかな。  オレのいい方に取るなら後ろだけど。  ……多分、違うのは分かってるんだけど。  そういうこと言われると、容易く臨戦態勢に入れるけど。  相変わらず、よく分からない発言を普通にぶっこんでくるので、あれやこれやと、自分の中で馬鹿なやり取りを繰り返してしまう。  

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