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第260話◇こちらこそ
なんかオレ、陽斗さんのことを可愛い可愛いって、ずっと言ってるけど。
……正直、可愛い感じの人ではないんだよな。
カッコよくて、綺麗な人、だし。
会社では、皆にとって、ずっとそう。すごく尊敬できるし、もうその顔の作りや体つきとか綺麗すぎて。見惚れる位だし。……誰もがカッコいいって思ってる気がする。実際にそう言われてるのを何回も聞いてるし。
「三上はさ、部長の話、断るとかは考えなかった?」
「……あの時は、何でオレが、とは一瞬思ったんですけど……そんなこと、あんのかなーとも、思ったし」
そう言ったら、陽斗さんは、ははっと笑った。
「そうだよね、分かる」
前を向いたまま、クスクス笑う。
「でも、部長の中に、オレが話を受けないっていう選択肢は無さそうだったので、行きますって言ったんです。あの時は」
「うん」
「まあでも、行って良かったって、心底思いましたけどね」
「あはは。そんなにだったっけ……?」
「そうでしたよ。あの人、どうにか陽斗さんと二人になろうってしてましたよね?」
「うーん……あ、食事とか?」
「工場の見学とかもそうですよ」
「ああ、そういえば……ていうか……三上の仮病……」
クッと笑い出して、陽斗さんがオレを振り返る。
「三上が仮病使ったの思いだすと、笑っちゃうんだけど」
なんだかめちゃくちゃ楽しそうに、クックッと笑い続けながら、口元を押さえてる。
「もうあれ最終手段でしたけど。だって陽斗さん、全然気づいてないというか、夕飯も行こうとしてるし……断る口実も思いつかないからもう、あれしかないって思ったんですよ」
ほんとにもー、とオレが呆れながら言うと。
「別に夕食行ったって、なにが どうなるってことも無かったと思うけど」
笑いながらのんきに言ってるけど。
……絶対向こうは、どうかしようと思ってた気がするんだけど。
「……まあでも……ありがとな」
ふ、と笑んだまま、見上げてくる。
「密命受けて一生懸命守ってくれてたとかさ。部長に聞くまで知らなかったから、驚いたけど……なんかそう思ったら、あん時の三上の全部が、すっごい面白くて」
クスクス笑いながら、見つめられて。
可笑しそうに笑われてはいるのだけれど、なんだかあまりに可愛い表情をしてるから、つい、見惚れていると。
自分の膝を抱えていた陽斗さんの手が、そろそろとオレの頬にかかって、少し引かれた。
「――――……」
ちゅ、と唇が触れて、ゆっくりと、離れる。
唇は離れたけど、手は頬に触れたままで、至近距離からじっと見つめられる。
「すごく好きだなーって思ってさ……」
お湯につかってるせいなのか、恥ずかしいからなのか分からないけど。
なんだか、ほんわか赤くて、ぽわぽわした表情で、そんな風に言われる。
「……だから、これから、よろしく」
にっこり笑って言った陽斗さんを、そのまま、ぎゅっと抱き締める。
ああもう。
ダメだな、可愛くて。
もうオレには、可愛くしか、見えないみたいだ。
何だかもう、悪気が無さそうな陽斗さんの行動のせいで、もう意味分かんない位、湧き上がる色々な感情と欲望を押さえつつ。
「……こちらこそ」
そう言うと。
ふふ、と嬉しそうに笑うのが、また可愛すぎるとか。
本人、絶対、可愛いって、自覚ないんだよな、これ。
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