261 / 274
第261話◇嬉しいって。
……つか、マジで誰か褒めてくれ。
可愛すぎる人と、裸で風呂で抱き合って、
キスするだけで出てきたオレを。
……理性が勝った。と言うのだろうか。
昨日無理させたっていう自覚と。
風呂だと余計疲れるだろうという心配と。
今日はいたわるって言ったのに、さっそくすんのか、付き合うってそれがメインなのかと思われたら嫌だと言う気持ち。
まあそこらへん全部が、欲に勝ったというか。
……でもそれでも、よく我慢したと、とりあえず自分を褒めたけど。
「はい、陽斗さん、オッケイです」
「ありがと、三上」
リビングで、ドライヤーをかけてあげて、なんだか幸せに浸ってるオレ。
やっぱ風呂でコトに及ばなくて良かったな。陽斗さんも元気で可愛いし。洗い立てで、ほこほこしてる柔らかい髪の毛の手触りが良すぎる。
「三上の髪、乾かしてあげるよ。座って」
楽しそうにオレからドライヤーを受け取って、位置を交換して陽斗さんが笑う。
「いつもセットしてるからさ。髪おろすと、幼くなるよなー」
「それ、陽斗さんもですからね?」
「まあ、皆そうか」
クスクス笑いながら、陽斗さんが柔らかくオレの髪に触れてる。
「ドライヤーかけてもらうことって、あった?」
「ん? あー……ないですね、掛けてって言われて、掛けたことはありますけど」
「ふーん……」
「って。別にやりたくてやったとかじゃなくて」
余計なこと言ったかと、振り返って顔を見ると。
ぷ、と陽斗さんは笑う。
「あのさあ、今更、お前の元カノとかにドライヤー掛けてたって位で何も言わないってば。焦りすぎ」
あはは、と笑いながら、そう言って、髪ごと、よしよしされてる気がする。
「そんなこと言ったら、オレの元カノたちって、結構尽くしてくれる子多かったから……世話は焼かれてた気がするし」
「そーですか……」
まあ、可愛いもんな、この人。
世話焼いてあげたくなる気持ちも、良く分かる。
「ドライヤーとか、されてました?」
「いや? ドライヤーはされてないかなあ……シャワー浴びたら、大体すぐ……」
そこまで言って、陽斗さんは、んー、と止まった。言いにくそうなので、引き継いで「乾かさずに、ベッドですか?」と言ってみると。
「んー……まあ。シャワー浴びるって、そういうこと、だった気が……」
「……まあ、分からなくはないですけど」
陽斗さんは、今更元カノに……とかいう言い方してるけど。
……オレ、結構心狭いかも。
どん位の人が、この人の可愛いとことか、色っぽい顔とか、知ってんのかなあ、と思うと、モヤモヤする。
……って、こんな気持ち、マジで初めてだけど。
でも陽斗さんが全然気にしてなさそうで、今更感があるのに、オレがモヤモヤを出す訳にはいかないけど、と思っていると。
優しくオレの髪に触れながら、「でもさ」と笑う。
「こんな風にさずっと一緒に居て、一緒にお風呂入った後、髪乾かし合うとかは初めてだから。なんか……結構いいな、これ」
ふふ、と何だかとても楽しそうに笑ってる。
つい、振り返って、陽斗さんを見上げると。
「いいよな?」と、同意を求めてくる。
「……ですね」
……あー、マジで可愛い。何なの、この感じ……。
ついつい手が伸びて、陽斗さんの首にかけて、引き寄せた。
ゆっくりキスすると、びっくりしたみたいに目を大きくした陽斗さんはすぐにドライヤーのスイッチを切ると、ふ、と笑んで目を細めた。
ゆっくりキスして、離れると。
「……キス魔だよなー、三上」
クスクス笑われてそう言われる。
「……そんなこと、今まで無かったんですけど」
「――――……」
少し黙った後、ふうん、と陽斗さんは笑うと。
「……別に元カノのこと、気にしたってしょうがないと思ってるけど……」
「……けど?」
「今までとは違う、みたいに言われると嬉しいって、変?」
「……変じゃない、と思いますけど」
「そう?」
ふ、と笑う陽斗さんが、なんだかすごく可愛く見える。
「……オレ、キスしたいとかも思わないし。そういうこと、したくもなくてって、三上に言ったじゃん?」
「まあ。そう、ですね」
「……今は、そんなこと、無いよ」
「――――……」
「……って言われたら、嬉しい?」
クスクス笑いながら、オレを見つめる陽斗さんに。
なんか、勝てないなーと思いながら頷いた。
ともだちにシェアしよう!