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第261話◇嬉しいって。

 ……つか、マジで誰か褒めてくれ。  可愛すぎる人と、裸で風呂で抱き合って、  キスするだけで出てきたオレを。  ……理性が勝った。と言うのだろうか。  昨日無理させたっていう自覚と。  風呂だと余計疲れるだろうという心配と。  今日はいたわるって言ったのに、さっそくすんのか、付き合うってそれがメインなのかと思われたら嫌だと言う気持ち。  まあそこらへん全部が、欲に勝ったというか。  ……でもそれでも、よく我慢したと、とりあえず自分を褒めたけど。 「はい、陽斗さん、オッケイです」 「ありがと、三上」  リビングで、ドライヤーをかけてあげて、なんだか幸せに浸ってるオレ。  やっぱ風呂でコトに及ばなくて良かったな。陽斗さんも元気で可愛いし。洗い立てで、ほこほこしてる柔らかい髪の毛の手触りが良すぎる。 「三上の髪、乾かしてあげるよ。座って」  楽しそうにオレからドライヤーを受け取って、位置を交換して陽斗さんが笑う。 「いつもセットしてるからさ。髪おろすと、幼くなるよなー」 「それ、陽斗さんもですからね?」 「まあ、皆そうか」  クスクス笑いながら、陽斗さんが柔らかくオレの髪に触れてる。 「ドライヤーかけてもらうことって、あった?」 「ん? あー……ないですね、掛けてって言われて、掛けたことはありますけど」 「ふーん……」 「って。別にやりたくてやったとかじゃなくて」  余計なこと言ったかと、振り返って顔を見ると。  ぷ、と陽斗さんは笑う。 「あのさあ、今更、お前の元カノとかにドライヤー掛けてたって位で何も言わないってば。焦りすぎ」  あはは、と笑いながら、そう言って、髪ごと、よしよしされてる気がする。 「そんなこと言ったら、オレの元カノたちって、結構尽くしてくれる子多かったから……世話は焼かれてた気がするし」 「そーですか……」  まあ、可愛いもんな、この人。  世話焼いてあげたくなる気持ちも、良く分かる。 「ドライヤーとか、されてました?」 「いや? ドライヤーはされてないかなあ……シャワー浴びたら、大体すぐ……」  そこまで言って、陽斗さんは、んー、と止まった。言いにくそうなので、引き継いで「乾かさずに、ベッドですか?」と言ってみると。 「んー……まあ。シャワー浴びるって、そういうこと、だった気が……」 「……まあ、分からなくはないですけど」  陽斗さんは、今更元カノに……とかいう言い方してるけど。  ……オレ、結構心狭いかも。  どん位の人が、この人の可愛いとことか、色っぽい顔とか、知ってんのかなあ、と思うと、モヤモヤする。  ……って、こんな気持ち、マジで初めてだけど。  でも陽斗さんが全然気にしてなさそうで、今更感があるのに、オレがモヤモヤを出す訳にはいかないけど、と思っていると。  優しくオレの髪に触れながら、「でもさ」と笑う。 「こんな風にさずっと一緒に居て、一緒にお風呂入った後、髪乾かし合うとかは初めてだから。なんか……結構いいな、これ」  ふふ、と何だかとても楽しそうに笑ってる。  つい、振り返って、陽斗さんを見上げると。 「いいよな?」と、同意を求めてくる。 「……ですね」  ……あー、マジで可愛い。何なの、この感じ……。  ついつい手が伸びて、陽斗さんの首にかけて、引き寄せた。  ゆっくりキスすると、びっくりしたみたいに目を大きくした陽斗さんはすぐにドライヤーのスイッチを切ると、ふ、と笑んで目を細めた。  ゆっくりキスして、離れると。 「……キス魔だよなー、三上」  クスクス笑われてそう言われる。 「……そんなこと、今まで無かったんですけど」 「――――……」  少し黙った後、ふうん、と陽斗さんは笑うと。 「……別に元カノのこと、気にしたってしょうがないと思ってるけど……」 「……けど?」 「今までとは違う、みたいに言われると嬉しいって、変?」 「……変じゃない、と思いますけど」 「そう?」  ふ、と笑う陽斗さんが、なんだかすごく可愛く見える。 「……オレ、キスしたいとかも思わないし。そういうこと、したくもなくてって、三上に言ったじゃん?」 「まあ。そう、ですね」 「……今は、そんなこと、無いよ」 「――――……」 「……って言われたら、嬉しい?」  クスクス笑いながら、オレを見つめる陽斗さんに。  なんか、勝てないなーと思いながら頷いた。    

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