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第268話◇ポーカーフェイス
陽斗さんが目覚めたのはもう夕方になってからだった。
オレがリビングのソファで、夕飯どうしようかなと考えていた時。かちゃ、と静かにドアが開いた音に振り返ると、陽斗さんがなんだか決まりが悪そうな顔で覗いてきた。
「あ、おはようございます」
「……うん。おはよ」
さっき寝たまま起きてくるかと思ったら、ちゃんと普通に服を着て起きてくるのが陽斗さんらしい。顔も洗ってきたみたいで、さっぱりしてる。
「ごめん、すごい眠ってた……さすがに起こしてくれてよかったのに」
「いや。オレのせいだと思うので。もっと寝ててくれても良かったですよ」
「一日終わっちゃうじゃんか」
苦笑しながら言って、陽斗さんはソファに腰かけた。
「こんな時間まで寝てたの、初めてかも」
「……陽斗さんぽいね」
なんかちゃんとしてそうだもんな。そう思っていった一言に、陽斗さんは、じっとオレを見つめてきた。
「三上はあんの?」
「夜更かしして、朝寝て夕方とか。ありましたね」
「何して夜更かししてた?」
「……まあ。族ん時は走りに出て、そのままたまり場とか」
女と居たこともあったけど。それは言わず終わらせようとすると。
「とか?」
「……飲み明かしてたり?」
「とか?」
「……何言わせたいの」
苦笑しながら、オレは陽斗さんの頬に触れた。
「女の子と居たりしたのかなーって。そんな顔したから」
「……そんな顔した?」
「うん。目を逸らした」
「……マジ?」
「マジですね」
陽斗さんの綺麗な綺麗な瞳が、ふと緩む。
「……ごめん」
ぎゅ、と抱き締めて、そう言うと、陽斗さんは、クスクス笑いながら、何がごめんなの? と聞いてくる。
「ごまかしたから」
「ああ。言わなかったから?」
くす、と笑って、陽斗さんはオレを見上げた。
「分かりやすいね、三上」
「……そんなバレるかな、オレ」
いやむしろバレないほうだと思うんだけど。
……オレ、この人には嘘つけねーかもしれない。
「三上って、ポーカーフェイス、鉄壁だと思ってたんだけど」
「そうですよね。オレもそう思ってました」
「はは。やっぱり?」
楽しそうに笑った陽斗さんに見上げられて、どき、と心臓が弾む。
うわ。オレ、この人。ほんとに好きみたい……やばいな。
「――――……」
陽斗さんが、何も返事をしないオレを見上げて、じっと見つめてくる。
「今も。考えてること、分かるかも」
「……わかりますか?」
「うん。多分」
「……オレ、何て思ってると思いますか?」
試しに聞いてみると。
陽斗さんは、オレをじっと見つめたまま、ふ、と笑った。
「……好き。とか?」
悪戯っぽく笑った陽斗さんに、「何で分かるんですか」と咄嗟に応えたら、陽斗さんは、え、と言って、また可笑しそうに笑い出した。
「ほんとにそんなこと思ってたのか?」
「は? 冗談だったんですか?」
「うん。わかんないよ、そんなの……」
クスクス笑って、陽斗さんがまたオレを見上げる。
「好き、て思ってたの? ほんとに?」
「……あー、なんかほんとに好きだな、て思ってました」
「うわー……」
そんな声を出したと思ったら、かぁっと赤くなって、口元を隠してる。少し目を逸らされて、どう見ても照れてる陽斗さん。
「冗談で言ったから言えたけど。……合ってるとか言われたら、自分が恥ずかしいし」
ああもう。可愛いなあ……。
頬に触れると、さっきより熱い。
両頬挟んでそのままあげさせて、その唇に、ちゅ、とキスすると。
「いつも思うんだけどさ」
「はい?」
「キスのしかた、手慣れすぎてない……?」
何だか少し、ムッとした顔をして。それから、
顎をあげてきた陽斗さんからも、軽くキスされた。
「……ちょっとムカつく」
少し笑いを含んでる、その言い方も可愛くて、抱き寄せて、唇を重ねた。
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