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第269話◇◇試す?

 激しくならないように、触れ合うキスだけにとどめているのに。  離れると、追いかけてきて、ちゅとキスされる。 「……陽斗さんて」 「ん?」 「オレを我慢強くさせようとしてます?」 「――――意味が良く分からないんだけど……」    可笑しそうに言って、陽斗さんが少し首を傾げる。 「なるべく優しいキスだけしとこうって、今思ってるんですよ」 「そーなんだ」 「だってやっと起きてきたとこだし」 「……ふ」  陽斗さんは、クスクス笑って、オレを見つめる。 「三上って、面白い」 「何がですか?」 「……余裕がありそうなのに。たまに急に余裕なくなる」 「陽斗さんのせいですね。確実に」 「あ、オレのせい?」  なんかすごく、嬉しそう。 「ですよ。ていうかオレから余裕奪うの、陽斗さんしか居ないです」 「そうなんだ。そっかー……」  ふうん、なんて楽しそうにオレを見つめた後、陽斗さんは、オレの頬に手を置いた。 「良く分かんないけど……」 「――――……」 「オレしか居ない、とか言ってくれるのは、嬉しいかもしんない」  そんな風に言って、ふ、と微笑みながらオレの頬を手でぷにぷにとこねてくる。  面白い顔になってそうで、若干嫌だけど、触られてるのは悪い気がしないとか、良く分からないことを考えていると。「なあ?」と見つめられた。頬に触れてた手は止まった。 「はい?」 「あのさ、オレ達さ。付き合って――――どうすんの?」 「どうすんの、とは?」 「んー……何、する?」 「何する……?」  ほんと、陽斗さんて。  ……仕事以外の時は、ほわほわしてるよなぁ……。  仕事の時は、何言ってるか分かんないなんて、そんな質問は絶対しないんだけど。 「何て言うかさ。女の子と付き合ってた時は、会社帰りにデートしたり、土日とかにどっか行ったり……イベントみたいなのがある時は、それが絶対だったりしたし」 「ああ……」  頷きながら、色々思い出してる陽斗さんを見つめる。 「結婚したらーとか言う話も出てきたりしたし……」 「まあ、分かります」 「でも、三上とはさ」 「はい」 「男同士じゃん? しかも、会社でずっと一緒だし。オレ、社内恋愛って、あんま無いんだよね。近すぎると、別れたらって思うからさ」  そのまま、じっと、オレを見つめる瞳。   「仕事がずっと一緒なのに、会社帰りとか、土日とかも一緒だと、もうほんとずっとになっちゃうだろ?」 「まあ、そう、ですね」 「そういうのも、含めて考えてさ、三上、オレと、何かしたいこと、あるかなーって思って?」  そう聞かれて、何だか嫌な方に頭が回る。  ……んん?? 会社でずっと一緒だからこれ以上、会社上がりも休日もとかなったら、それはちょっと、っていう話か? 結婚もできる訳じゃないし? イベントとかも男同士じゃしないっていう……??  オレが陽斗さんとしたいこと無かったら、しないってこと??  付き合って最初に話し合うのがそんなことな訳ないだろうと思いたいのだけれど、なんだか、言い方を聞いてると、そうとしか思えないような。 「……えーと、ですね」 「ん」  そんな、何て言うのかな、みたいな期待に満ちたまなざしを向けられても、ちょっと困るのだが。 「正直に言いますね」 「うん」 「ずっと、居ませんか?」 「――――……」 「何しててもいいから、陽斗さんと居たいです」 「……飽きない?」 「飽きないですよ。てか、付き合い始めに変な質問しないでよ」  手を伸ばして、陽斗さんの頬に触れる。 「ね?」  これで飽きそうだから嫌とか言われても、ほんとにマジで困るけど。  内心ドキドキしながら見つめていると。  ふ、と安堵したように、陽斗さんがふんわりと微笑んだ。 「……陽斗さん?」 「良かった。……じゃあ、一緒に、居よっか」  ぎゅ、と抱きつかれて、オレは、ん? と首を傾げた。  すると、陽斗さんは、ふっと笑い出して、オレの顔を見つめてくる。   「……だってさぁ、ずっと居ようとか、めんどくさって思われたら嫌じゃん。三上がどのくらいなのかなーと思って、敢えて……」 「うっわ……試したんですか?」 「試したって言い方は良くないな。無理させたくないし、三上に合わせようと思っただけだよ」  それを聞いて、ああ良かった、陽斗さんに合わせて、ずっと居るとか飽きちゃうかもとか、心にもないこと、言わなくて。    つかもう。  はー、とため息をつきつつ、まだクスクス笑ってる陽斗さんを抱き寄せた。  

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