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第270話◇◇一生甘やかす

「ごめん、ほんと……試したとかじゃなくて」 「ん?」 「聞きたかっただけ。……どれくらい、一緒に居ていいのかなーとか」 「――――」  なんかもう。  どすっと勢いよく、ハートに矢が刺さる。 「可愛い、陽斗さん」  ぎゅううう、と抱き締めて、そう言うと。 「シラフで可愛いとか言うなよ……」  腕の中でぼそっとツッコミが入る。 「ただでさえ、仕事ずっと一緒っていうのも……今まで無いしさ。朝から夕方まで、いろんなこと、ずっと一緒にしてて、それで帰っても一緒で、休日まで一緒、とかさ、今まで経験したことないんだよ」 「……オレも、まあ、無いですね」 「だろー?」  腕の中から、むくっと起き上がった陽斗さんが、オレを見上げてくる。 「どんな感じかなーって、少しは考えるじゃん?」 「んー……でも、仕事をずっと一緒にやってきて、その上で、好きだと思ってもっと一緒に居たいって思ってるので」 「――――」 「なので、仕事の後とか、休みとか、当然もっと一緒に居れるものだと思って、好きだって言ってますけどね」  だってそうだよな。  仕事してる陽斗さん、こないだまでは、むかつくって言ってたけど。カッコイイと心の中ではずっと思って認めてて。色々判明してからの陽斗さんは、もう、可愛いしかない。でもって、仕事中はカッコいいし、綺麗だし。  ――――仕事以外の時も、もちろん綺麗だけど、なんかオレといる陽斗さんは、仕事中と大分イメージが違って、可愛いし。  ああ、そっか。だから、仕事ん時の陽斗さんも好きで、でもって、オレと二人の時の陽斗さんも好きだから。  だから、 飽きるとかありえないな。 「仕事ん時の陽斗さんと、二人でいる時の陽斗さん、オレにとっては、大分違うんですよ。分かります?」 「……仕事ん時は、オレ、結構頑張ってるかも。社会人として?みたいな」 「うん。カッコイイですよね」 「――――真顔で言うな」  照れたみたいに言う陽斗さんに、クスクス笑いながら。 「じゃあ、オレと二人の時の陽斗さんが素なのかな」 「……んー……」  頷くかと思いきや、陽斗さんは唸ったまま、うーんと考え込んでいる。 「……仕事ん時は、頑張ってて、仕事以外で他の人と居る時のオレは普通で……」  ……ん?? 「三上と居るオレは、ちょっと変だと思う」  ――――……んん? 変? 「どういう意味?」  そう聞くと、陽斗さんは首を傾げつつ。 「なんか……良く分かんない。頼っちゃってる、ような……」  頼っちゃってる……? 「……あー。ちょっと違うか……んー」 「……うん?」  また少し考えてから。  オレをじっと見つめてくる。 「年下、なのに」 「うん??」 「……なんかよくわかんないけど」 「うん」 「……甘えちゃってる……気がするかもしんない」 「――――……」 「なんかオレ、あんまり、人にこんな風に、任せてること、今まで無かったかも」 「――――……」  なんか。  思考停止。  ――――……可愛すぎて。  そのオレを見て、陽斗さんは、はっと気づいたように、口を片手で軽く抑えた。 「あ、ごめん、何言ってんだオレ。嫌だったら、ちゃんとするけど」 「だめ」 「え?」  オレは、陽斗さんをぎゅーーーっと抱き締めた。 「もう、ずっと、一生オレに甘えてて」 「…………」 「すっげーかわいい」  しみじみ言ったオレに、陽斗さん、少し黙ってたけど。 「可愛いって言われンのは、慣れない」  「……うん。でも可愛い」 「慣れないけど……嬉しくなくは、ないかも……」 「――――……」  ああ、もうなんなのこの人。  すげーかわいい。  一生甘やかそう。  と、思ってしまった。

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