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第270話◇呼び方さえも

 体大丈夫だから外に出られるよ、と陽斗さんが言うので、夕飯は、個室の居酒屋にやってきた。四人掛けの、窓から夜景の見える席。完全にドアの閉まる個室なので、二人きりの空間。ネットで探して初めて来たけど、良い感じの店で良かったと思ってると、陽斗さんが窓から外を見ながら。 「すごいな、ここ。綺麗」  微笑して、外を見てる横顔が、本当に綺麗に見える。 「そうですね」  陽斗さんのほうが綺麗、とか。  言ってしまいそうになるけど、ちょっとベタすぎるからやめにした。 「ビールでいい?」 「うん」  メニューを陽斗さんに渡す。注文はタッチパネルなので先に飲み物を頼んだ。 「食べたいもの言ってって」 「んー……焼き鳥とか。串の頼んで」 「モモ?」 「うん。あと、豚しそとか……色々適当に」 「了解」 「あとサラダとか……」 「ん」  適当に一通り頼んだところで、先に飲み物とお通しが運ばれてきた。  ドアが閉まると、グラスを手に取る。 「じゃあ、陽斗さん」 「ん」 「付き合い記念で」  そう言うと、陽斗さんは、はは、と笑って、グラスを近づけてきた。 「よろしく。三上」 「よろしくお願いします」  そう言うと、ふ、と笑う陽斗さん。 「美味しー」  言いながらグラスを置くと、オレをまっすぐ見つめる陽斗さん。 「三上、敬語で話したい?」 「んー……どうだろ。自然と今は敬語ですけど」 「その内崩してくれてもいいよ」 「……分かりました」  頷いてから、ふと、思って。 「陽斗さん的には、どっちがいいんですか?」 「んー……まあ全然敬語でも慣れてるからいいんだけど。三上が、良い方で良いよ。崩したかったら、崩して」 「ん。分かりました」  頷いてから少し考える。ゆくゆくは崩したいな。敬語って少しよそよそしい気がするし。でも仕事ん時は、敬語だろうから。混ぜてく感じか?   ちょっと今までそういう感じで、分けて接したことが無いからな。 「仕事では敬語なので、自然と敬語使うかもですけど」 「それならそれでいいよ」  うんうん、と頷きながら、陽斗さんはオレを見てる。 「あ。名前は?」  オレが聞くと、陽斗さんは、んーと首を傾げる。 「オレのことは、蒼生でいいですよ?」  ふ、と笑って言ってみると、陽斗さんは、んー、と考えてから。  蒼生、かぁ……蒼生……。と呟いてる。 「……も少し時間ほしいかも」  そんな風に言って、顎に手を当てて悩んでる、照れたみたいな顔に、微笑んでしまう。  いまんとこ、蒼生って呼んだのは、オレとそういうことしてて、オレが呼んでって言った時だけ、だったような。それを思い出してるのかなと。 「了解。……オレが、名前で呼ぶのは、ありですか?」 「陽斗って?」 「うん」 「……ちょっと考えさせて」 「はは。良いですよー、いくらでもどうぞ」  そっちも、セックスしてる時だけ、だったよな。  ――――まあ。  そういうことしてる時にだけ呼ぶのも、それはそれで、萌えるから、全然いいんだけど。  なんかこんな呼び方ひとつ、考えるとか言う陽斗さんが。  ……すげー可愛いし、こんな会話がめちゃくちゃ楽しいとか。  なんか、ちゃんと恋する、って。  ――すげーかも。

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