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第271話◇呼び方さえも
体大丈夫だから外に出られるよ、と陽斗さんが言うので、夕飯は、個室の居酒屋にやってきた。四人掛けの、窓から夜景の見える席。完全にドアの閉まる個室なので、二人きりの空間。ネットで探して初めて来たけど、良い感じの店で良かったと思ってると、陽斗さんが窓から外を見ながら。
「すごいな、ここ。綺麗」
微笑して、外を見てる横顔が、本当に綺麗に見える。
「そうですね」
陽斗さんのほうが綺麗、とか。
言ってしまいそうになるけど、ちょっとベタすぎるからやめにした。
「ビールでいい?」
「うん」
メニューを陽斗さんに渡す。注文はタッチパネルなので先に飲み物を頼んだ。
「食べたいもの言ってって」
「んー……焼き鳥とか。串の頼んで」
「モモ?」
「うん。あと、豚しそとか……色々適当に」
「了解」
「あとサラダとか……」
「ん」
適当に一通り頼んだところで、先に飲み物とお通しが運ばれてきた。
ドアが閉まると、グラスを手に取る。
「じゃあ、陽斗さん」
「ん」
「付き合い記念で」
そう言うと、陽斗さんは、はは、と笑って、グラスを近づけてきた。
「よろしく。三上」
「よろしくお願いします」
そう言うと、ふ、と笑う陽斗さん。
「美味しー」
言いながらグラスを置くと、オレをまっすぐ見つめる陽斗さん。
「三上、敬語で話したい?」
「んー……どうだろ。自然と今は敬語ですけど」
「その内崩してくれてもいいよ」
「……分かりました」
頷いてから、ふと、思って。
「陽斗さん的には、どっちがいいんですか?」
「んー……まあ全然敬語でも慣れてるからいいんだけど。三上が、良い方で良いよ。崩したかったら、崩して」
「ん。分かりました」
頷いてから少し考える。ゆくゆくは崩したいな。敬語って少しよそよそしい気がするし。でも仕事ん時は、敬語だろうから。混ぜてく感じか?
ちょっと今までそういう感じで、分けて接したことが無いからな。
「仕事では敬語なので、自然と敬語使うかもですけど」
「それならそれでいいよ」
うんうん、と頷きながら、陽斗さんはオレを見てる。
「あ。名前は?」
オレが聞くと、陽斗さんは、んーと首を傾げる。
「オレのことは、蒼生でいいですよ?」
ふ、と笑って言ってみると、陽斗さんは、んー、と考えてから。
蒼生、かぁ……蒼生……。と呟いてる。
「……も少し時間ほしいかも」
そんな風に言って、顎に手を当てて悩んでる、照れたみたいな顔に、微笑んでしまう。
いまんとこ、蒼生って呼んだのは、オレとそういうことしてて、オレが呼んでって言った時だけ、だったような。それを思い出してるのかなと。
「了解。……オレが、名前で呼ぶのは、ありですか?」
「陽斗って?」
「うん」
「……ちょっと考えさせて」
「はは。良いですよー、いくらでもどうぞ」
そっちも、セックスしてる時だけ、だったよな。
――――まあ。
そういうことしてる時にだけ呼ぶのも、それはそれで、萌えるから、全然いいんだけど。
なんかこんな呼び方ひとつ、考えるとか言う陽斗さんが。
……すげー可愛いし、こんな会話がめちゃくちゃ楽しいとか。
なんか、ちゃんと恋する、って。
――すげーかも。
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