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第272話◇体が反応

「美味しいね」 「ですね」  料理もおいしいし、当たりだったなと思ってると、陽斗さんがオレをじっと見つめてくる。なんだか、ふ、と思い出して、笑ってしまった。 「なんか、こうして見つめられるだけで嬉しいんですよね、オレ」 「……それはもしかして、あんまり目を合わせなかったから?」  苦笑の陽斗さんに、そう、と頷く。 「別にもう何とも思ってないんですけど。見てほしいって、思ってた自分がおかしくて」 「ごめ」 「謝ってくれなくていいですよ。多分端から、嫌いだったら、見てほしいなんて思わないので、オレ」 「――――……」 「こっち見てほしいって思ってた時点で、相当だったんだろうなーと思うんですけど、でも、当時は、全然自分の気持ちにも気づかなくて」  鈍かったなーと、しみじみ言ってると、陽斗さんは、んー、と少し考えてから、オレを見つめた。 「三上は、男を対象にしたこと無いんだから、当たり前なんじゃない?」 「まあ、そうかもですけど」 「気づかなくて当たり前だと思う。ていうか、オレだって、自分の気持ち、全然よく分かんなかったし」  苦笑して言って、陽斗さんはドリンクを口にした。 「この年まで女の子だけが対象でさ、急に男と恋する、とか……結構すごいことだと思うんだよね。自分でも驚いてるし」 「そう、ですよね」 「三上は、納得してる?」  ちょっと試すような感じで聞いて、じっとオレを見つめる陽斗さん。  オレは、少しだけ考えて、ふ、と笑ってしまった。 「納得も何も、あんたのことしか見てないし、体が勝手に反応するし。もう、そうとしか、思えないので」 「うわ。恥ず、三上」  自分で聞いてきたくせに、そんな風に言って、眉を寄せる。 「体がとか言わなくていいから」  むむ、と眉間の皺、寄せたまま、残っていたアルコールを飲み干してる。 「でもさ。ただの先輩と後輩で好きなのと、そういう意味なのって、やっぱり、そこだと思いません?」 「…………」 「他の先輩とか同期とか、好きでも、体が反応することはないので」 「――――……っ」 「そう思うと、陽斗さんって」 「…………何?」  なんか、心なしか顔が少し赤いのは、酒なのか、恥ずかしいのか。  どっちか分からないけれど、表情はなんだか少しムッとしてる。それ以上言わなくていいよ、って思っていそうだけど。 「陽斗さんって、オレ見て、欲情する?」 「~~~っ……!」  ずばりで聞いたら、一気に真っ赤になった。  ――――……あー。可愛い。  ヤってる時のこの人は、変に煽ってきて、超エロいのに、その時以外は、なんか、すげー、純粋というか、からかい甲斐があるくらい、可愛すぎるというか。 「ねえ、どんな感じですか? たとえば、オレ見て、抱かれたいとか、思う?」 「…………っ」 「オレ、普段会社で陽斗さん見てても、触りたいなーとか、たまに思うことあるんですけど」  思うことあるどころじゃなくて、しょっちゅう思うけど、それはまあ、言わないでおこう。ちゃんと仕事しろって、それはもう真面目モードで怒られそうだから。 「陽斗さんは、オレに、ちゃんと反応する?」 「…………っ言い方!」  ん? 言い方? と聞き返すと。 「違う言い方あるだろ……何でわざわざ恥ずかしい言い方する訳」  あ、ちょっと怒ってみせてる。  ……顔、赤いけど。あーマジで可愛い。  ほんと。体が反応するって。  マジだよなぁ、と、思う。  抱き締めたくて手が動きそうになるし。  今はまだ抑えてるけど、本気でその気になれば、すぐにでも抱けそう。  

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