272 / 273
第272話◇体が反応
「美味しいね」
「ですね」
料理もおいしいし、当たりだったなと思ってると、陽斗さんがオレをじっと見つめてくる。なんだか、ふ、と思い出して、笑ってしまった。
「なんか、こうして見つめられるだけで嬉しいんですよね、オレ」
「……それはもしかして、あんまり目を合わせなかったから?」
苦笑の陽斗さんに、そう、と頷く。
「別にもう何とも思ってないんですけど。見てほしいって、思ってた自分がおかしくて」
「ごめ」
「謝ってくれなくていいですよ。多分端から、嫌いだったら、見てほしいなんて思わないので、オレ」
「――――……」
「こっち見てほしいって思ってた時点で、相当だったんだろうなーと思うんですけど、でも、当時は、全然自分の気持ちにも気づかなくて」
鈍かったなーと、しみじみ言ってると、陽斗さんは、んー、と少し考えてから、オレを見つめた。
「三上は、男を対象にしたこと無いんだから、当たり前なんじゃない?」
「まあ、そうかもですけど」
「気づかなくて当たり前だと思う。ていうか、オレだって、自分の気持ち、全然よく分かんなかったし」
苦笑して言って、陽斗さんはドリンクを口にした。
「この年まで女の子だけが対象でさ、急に男と恋する、とか……結構すごいことだと思うんだよね。自分でも驚いてるし」
「そう、ですよね」
「三上は、納得してる?」
ちょっと試すような感じで聞いて、じっとオレを見つめる陽斗さん。
オレは、少しだけ考えて、ふ、と笑ってしまった。
「納得も何も、あんたのことしか見てないし、体が勝手に反応するし。もう、そうとしか、思えないので」
「うわ。恥ず、三上」
自分で聞いてきたくせに、そんな風に言って、眉を寄せる。
「体がとか言わなくていいから」
むむ、と眉間の皺、寄せたまま、残っていたアルコールを飲み干してる。
「でもさ。ただの先輩と後輩で好きなのと、そういう意味なのって、やっぱり、そこだと思いません?」
「…………」
「他の先輩とか同期とか、好きでも、体が反応することはないので」
「――――……っ」
「そう思うと、陽斗さんって」
「…………何?」
なんか、心なしか顔が少し赤いのは、酒なのか、恥ずかしいのか。
どっちか分からないけれど、表情はなんだか少しムッとしてる。それ以上言わなくていいよ、って思っていそうだけど。
「陽斗さんって、オレ見て、欲情する?」
「~~~っ……!」
ずばりで聞いたら、一気に真っ赤になった。
――――……あー。可愛い。
ヤってる時のこの人は、変に煽ってきて、超エロいのに、その時以外は、なんか、すげー、純粋というか、からかい甲斐があるくらい、可愛すぎるというか。
「ねえ、どんな感じですか? たとえば、オレ見て、抱かれたいとか、思う?」
「…………っ」
「オレ、普段会社で陽斗さん見てても、触りたいなーとか、たまに思うことあるんですけど」
思うことあるどころじゃなくて、しょっちゅう思うけど、それはまあ、言わないでおこう。ちゃんと仕事しろって、それはもう真面目モードで怒られそうだから。
「陽斗さんは、オレに、ちゃんと反応する?」
「…………っ言い方!」
ん? 言い方? と聞き返すと。
「違う言い方あるだろ……何でわざわざ恥ずかしい言い方する訳」
あ、ちょっと怒ってみせてる。
……顔、赤いけど。あーマジで可愛い。
ほんと。体が反応するって。
マジだよなぁ、と、思う。
抱き締めたくて手が動きそうになるし。
今はまだ抑えてるけど、本気でその気になれば、すぐにでも抱けそう。
ともだちにシェアしよう!