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第一章 雨の日に

 その日は、一日雨だった。  昼も薄暗いほど雲が垂れ込め、しとしとと雨が降っていた。  湿度は90%もあり、黙っていても汗がにじみ出す。  そんな日の黄昏時を、平 雅貴(たいら まさき)の乗ったロールスロイスは走っていた。 「雅貴さま、申し訳ございません。渋滞しております」 「構わない」  雅貴はまだ30代の若さで、名門・平家の当主だ。  日本屈指の富豪でありながらも、いかんせん公道の事情まではどうしようもなかった。 (何とかならないか)  運転手が焦るその時、雅貴から意外な声が届いた。 「待て。停めろ」 「はい」  雅貴は車を停車させると、ウィンドウを下ろした。  歩道の隅に、人影がある。  傘もささずに、ずぶ濡れの少年がうずくまっていた。 「そこの少年」  少し声を張った雅貴に気づいたのか、少年は顔を上げた。

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