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第一章・2
少年は、紙のように白い頬をしていた。
唇は紫で、見るからに具合が悪そうだ。
ただ、整ったきれいな顔立ちをしていた。
美しい、少年だった。
「僕、ですか?」
「そう、君だ。どうしたんだ、こんなところで傘もささずに」
「……」
返事がない。
「乗りたまえ」
雅貴の言葉に、音もなく車のドアが開いた。
ずぶ濡れのまま、少年は吸い込まれるようにロールスロイスに乗った。
濡れた体もすぐに乾くほど、車内の空調は快適だった。
「君、名前は?」
「白沢 藍(しらさわ あい)です」
与えられたタオルで体を拭きながら、藍は答えていた。
雅貴の後部座席に控えているガードマンは、気が気ではなかった。
(どこの馬の骨ともわからない人間を、お近くに置かれるなど!)
しかし、ライバル会社の放ったハニトラの類には、見えない。
それほど藍は、やつれてみすぼらしかった。
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