2 / 111

第一章・2

 少年は、紙のように白い頬をしていた。  唇は紫で、見るからに具合が悪そうだ。  ただ、整ったきれいな顔立ちをしていた。  美しい、少年だった。 「僕、ですか?」 「そう、君だ。どうしたんだ、こんなところで傘もささずに」 「……」  返事がない。 「乗りたまえ」  雅貴の言葉に、音もなく車のドアが開いた。  ずぶ濡れのまま、少年は吸い込まれるようにロールスロイスに乗った。  濡れた体もすぐに乾くほど、車内の空調は快適だった。 「君、名前は?」 「白沢 藍(しらさわ あい)です」  与えられたタオルで体を拭きながら、藍は答えていた。  雅貴の後部座席に控えているガードマンは、気が気ではなかった。 (どこの馬の骨ともわからない人間を、お近くに置かれるなど!)  しかし、ライバル会社の放ったハニトラの類には、見えない。  それほど藍は、やつれてみすぼらしかった。

ともだちにシェアしよう!