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第二章・3
藍は医者にかかろうにも、保険証もお金もない。
だがそれには、全く自然な運びで雅貴が続けた。
「ここには、専属の医師がいる。彼に診てもらうといい」
「お屋敷専属、ですか」
どこまで突き抜けたお金持ちなんだろう。
藍はまたまた目を回しかけたが、ふととどまった。
「でも僕、一日だけ御厄介になるつもりでいたので」
「何日いても、構わない」
せめて、健康を取り戻すまではここにいなさい。
そう、雅貴は言ってくれた。
「どうして平さんは、そんなに親切なんですか?」
素朴な疑問だった。
しかしそれには、明確な回答はなかった。
「解らない」
ただ一言、そう言って雅貴はドアを開けた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
どこまでもミステリアスな、雅貴だった。
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