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第7話 SIDE:風紀委員長(2)
――生徒会役員全員が、転入生に陥落したのは、新入生歓迎会が終わった直後の事である。元々顔で選ばれただけの無能な奴らは仕事を放棄した。その皺寄せが一気に、風紀委員会へとやって来た。
俺は苛立っていた。まず一つ、転入生の事というよりも、新入生歓迎会で伊澄が襲われかけた事に関して。加害者を血祭りにしたかったが、ぐっとこらえた。震えて怯えて泣いていた伊澄を思い出すと、ずっとそばにおいてついていたくなる。
だがそれは転入生騒動で叶わない。俺は転入生に関しては他の苛立ちもある。俺ですら名前で呼べていなかったのに、伊澄を詩乃と呼び捨てにしているのが頭に来る。俺は接触させないように決めた。伊澄も生徒会の連中のように、万が一にも転入生に陥落したら困る。伊澄は俺のものだ。逆に転入生が伊澄に惚れても困る。
だから伊澄の事は、風紀委員会室に書類仕事として閉じ込めている。周囲の風紀委員は、完全にそんな俺に呆れていた。奴らは、生徒会は転入生に陥落したが、俺は伊澄に陥落しているという。その通りだ。何が悪い。
仕事が増えていくから、伊澄を抱く頻度が激減した。時折風紀委員会室に戻ると、少しやつれた様子で仕事をしている伊澄は、溜まっているらしく、俺を見て顔を赤くしては、目を艶っぽく潤ませる。たまらない。
しかしそろそろ、生徒会の連中を本格的にどうにかしないとならない。そう考えて、俺はある夜、転入生を呼び出した。そして告げた。
「奴らに働けと伝えろ」
「んー……伊澄に会わせてくれるなら」
「ダメだ」
「なんでだよ? 俺、大好きだからな」
「俺もだ」
苛立ちながら俺は伝えた。すると簀河原奈都が驚いたような顔をした。その時気配を感じて外に出たら、まさに伊澄が立っていた。
伊澄は、全く分かっていない。俺がどれだけ伊澄を愛しているかという事を。苛立ちながら、俺は伊澄を自室に連れ帰った。そして無防備な伊澄――詩乃を抱き潰した。もう絶対に離さない。
この馬鹿な恋人が、奇っ怪な事を言ったのは、次の週明けだった。合鍵で入ってきた桜海と俺が付き合っていると誤解していたというのは――この時まで、俺は知らなかった。俺と転入生の事を誤解したばかりか、何故桜海……。
「僕は、だから……その……性処理係で……」
俺は頭を叩かれたかのような衝撃を受けた。話を聞いてみたら、恐る恐るというように詩乃がいう。詩乃は――俺から見ると、外側は完璧なのだが、中身に自信が感じられない。ネガティブなのだろうと、やっと俺は理解した。
そこで俺は、自分の悪癖を押さえ込む決意を固めた。
もう体だけでは満足できなくなっているのは、俺なのだ。伊澄の心が欲しくてならない。好きだと言われているが、半ば言わせているようなものである。
これからは、ドロドロに中身を甘やかして、俺の事以外考えられなくしてやろう。そう決めた。
「詩乃」
膝の上に乗せて、抱きしめながら、俺は微笑した。詩乃は真っ赤になっている。今は仕事の合間の休憩中だ。なお――他の委員もいるが、俺は気にしない。詩乃は周囲を気にして、完全に動揺している。委員達は、俺達を生暖かい眼差しで見守っている。
「詩乃は可愛いな」
「!」
詩乃がビクリとした。瞳がこぼれ落ちそうなほど見開かれていて、潤んでいる。俺はその頬に口づけた。すると詩乃がピクンと体を跳ねさせ、その瞳に今度は艶が宿る。俺は詩乃の耳の後ろをなぞりながら、今度は唇に触れるだけのキスをした。
すると桜海が言った。
「外でやらないでくださいよ? 他の生徒に示しが付かないので」
「ああ。詩乃の可愛い姿は、あまり見せたくないからな。詩乃は俺だけのものだ」
「!」
詩乃が両手で顔を覆った。真っ赤になって震えている。小動物のようで可愛らしい。
「詩乃、好きだぞ」
「!!」
「愛している」
「っ」
「詩乃は?」
そう言って俺が詩乃の唇をなぞると、詩乃が泣きそうな顔をした。相変わらず真っ赤だ。言うのが恥ずかしいのか、おろおろと周囲に視線を走らせている。それから詩乃は、可愛い事に、俺の耳元に唇を寄せた。そして小声で囁くように言った。
「好きです」
俺の恋人は、学園で一番愛らしいだろう。
詩乃が欲しくなったので、俺は風紀委員長室に詩乃を連れて行った。
そして抱きしめる。詩乃はプルプルと震えている。
「詩乃は、どのくらい俺が好きだ?」
「っ」
顎の下をくすぐりながら聞くと、詩乃がきゅっと目を閉じた。
「世界で……一番好きです」
「二番目は?」
「えっ」
「俺以外を好きになるな。お前は俺だけを好きでいろ」
すると詩乃が、小さく頷いた。本当に従順だ。そのまま服を脱がせながらキスをして、俺は詩乃を押し倒す。詩乃の体には、俺がつけたキスマークが沢山散らばっている。俺は痕が消えてしまわないように、今日も口づけた。
「ぁ……」
詩乃が甘い声を出す。肢体が赤く染まっていて、詩乃の陰茎は既に反応している。開発のしがいがありすぎる体だ。
従順で健気でちょっとネガティブな詩乃。
俺だけの詩乃。
詩乃は、自信が無さそうに、俺の愛の言葉を聞いている風だ。だから俺は何度も囁く。
「愛している」
「っ」
するとその度に、詩乃が真っ赤な顔で、瞳を潤ませる。きちんと伝わっているだろうか?
いいや、伝えるのだ。
「好きだぞ。詩乃は?」
「あ……僕も……」
照れるように詩乃が言う。もっと自信を持って欲しい限りだ。
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