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第6話 性処理係は誰のものか?
翌日から――僕の仕事は元々の通りの見回りや書類仕事となったのだが……書類が爆増していった。生徒会の皆様に近づいたとして、親衛隊が奈都君に制裁を始めたのである。僕は腕っ節も強くないし、制裁対応がまだ未習得であるとされたので、風紀委員会室で書類仕事をするように命じられた。必死で確認し、サインをし、訪れた加害者から聴取をしたりして毎日を過ごした。
その内に、新入生歓迎会の日が訪れた。僕は風紀委員なので、参加せずに見回りをする事になった。何でも例年、強姦被害が多いらしい。内容は鬼ごっこ兼かくれんぼらしく、隠れている所を襲われる事が多いそうだった。
人手が足りないという事で、今回は各委員が単独で見回りをする事になっている。僕は食堂で注意をできなかった――失態を犯してしまったので、本日こそ挽回して、七折委員長に優秀だと思ってもらえるように頑張りたいと感じていた。
久しぶりの見回りであるが、頑張ろう。そう思いつつ南校舎前の茂みを歩いていた時だった。
「お。風紀の一年じゃん」
「あー、噂の風紀委員長の性処理係?」
「伊澄君だっけ?」
「確かに綺麗な顔してんなー」
僕は上級生に囲まれた。不意に三年生の集団が現れたのだ。皆、制服を着崩している。周囲には酒と煙草の匂いがする。これこそ摘発しなければ。と、思うと同時に、僕は衝撃を受けた。
――風紀委員長の性処理係?
青ざめそうになった。確かに……もう指導の枠組みを超えて、僕は委員長に抱かれまくっているようには思うのだ。委員長には桜海先輩という恋人がいるようだと分かっているにも関わらずだ。僕はそれまで、自分と委員長の関係を表す言葉を上手く見つけられなかったのだが……性処理係……。ショックだった。
「っ」
その時、一人が僕を後ろから羽交い締めにした。ショックすぎて気が抜けていたのだ。
「離――」
「だーめ」
もう一人が僕の制服を引き裂くようにした。上着のボタンが飛ぶ。続いてシャツも破かれた。そのまま僕は引き倒された。
「嫌だ、やめ――」
僕は焦った。四人がギラついた瞳を僕へと向けている。次々と下衣をおろした彼らは、僕の体に手を伸ばし始めた。僕は硬直した。恐怖に駆られる。これでは、僕が強姦されるのは明らかだった。
「何をしている?」
そこへ声がかかった。ハッとして顔を上げると、七折委員長の険しい顔がそこにあった。駆け寄ってきた委員長が、四人を殴り倒していく。そして僕を抱き起こした。
「何をされた? 未遂か?」
「……」
怖くて僕は何も言えなかった。震えながら委員長の服をギュッと掴む。涙が零れてきた。情けのない姿を見せてしまった。怖かったが、委員長にダメ委員と思われるのも悲しかった。だがやっぱり怖い。しかし縋って震えるというのは、さらにダメ委員と思われるかもしれない。僕は混乱しながらただ涙をポロポロと零した。
そのまま、僕は風紀委員会室に連れて行かれた。聴取だろうと考えていると、二人きりの室内で、委員長が僕を抱きしめた。
「無事で良かった」
「っ」
「やはりお前を一人で見回りさせるのは不安になって、追いかけて正解だった」
僕はそんなに頼りないのだろうか……。
同時に思う。
僕の役目は、性処理なのだろうか……。
だが、委員長の腕のぬくもりが優しかったので、それでも良いと思ってしまった。
「怖かったか?」
「……」
「声を出して泣いて良いんだぞ?」
「……っ」
「なんとか守る事ができて良かった」
「七折委員長……」
「――俺以外に、体を触らせるな」
「はい……」
僕はついに嗚咽をこらえられなくなって、そのまま泣いた。一気に恐怖が再燃してきた。そんな僕を、ずっと委員長は抱きしめていてくれた。
こうして新入生歓迎会は終わりを迎えた。優勝したのは、弥生田君だった。賞品の一日デート券で、弥生田君は生徒会長とデートをするらしいと風の噂で聞いた。
以後の日々も、どんどん親衛隊による奈都君への制裁はひどくなっていった。というのも奈都君が、『親衛隊なんておかしい』『親衛隊がいるから、みんなに友達が出来ないんだ』と言ったかららしい。……親衛隊はいないが、僕には友達がいないんだけどなぁ。
「もう少し見回りを強化しなければならないな」
風紀委員会の臨時会議が再び開かれた。最近では、学園の人気者達が、次々奈都君と仲良くなっているそうで、それも制裁を煽っているらしい。
僕は奈都君とは直接的には一度しか話していないので、現状はいまいち把握できていない。だが僕は同じクラスだし、汚名を返上したい。
「僕が行きます」
「ダメだ。お前は簀河原奈都に近づくな」
僕の言葉を七折先輩が不機嫌そうに切り捨てた。やはり僕は頼りないのだろう。どうしたら、七折委員長の役に立てるんだろう?
「あの転入生は面食いだし、初日には率先して伊澄に話しかけていたという経緯もあるし、絶対に近づいちゃダメだよ。君まで被害を受ける可能性が高すぎる」
桜海先輩が僕を見た。その言葉に首を傾げる。被害……?
とりあえず、この日、僕が行くのは却下され、取り急ぎ委員長と副委員長が交互に行く事になった。他の時間帯は高遠君が気を配る事に決まった。僕は書類を片付けるようにと、風紀委員会室から出ないようにと、何度も委員長に念押しされた。確かに書類は溜まっている……。
その後、中間テストの時期が近づいてきた。しかし僕には勉強する余裕が無かった。なんと生徒会室に奈都君はずっといるらしく、生徒会役員達が仕事をしてしまわなくなったそうで、風紀委員会の署名でも許可される、生徒会の仕事まで、風紀委員会室に回ってくるようになったからである。急ぎの部活や委員会への許可を、臨時で風紀委員会が出す形になってしまったのだ。僕はひたすらサインをしたり、ハンコを押したり、議事録を確認したりした。仕事が膨大すぎて、どんどん帰る時間が遅くなっていく。
委員長達は、奈都君を説得しているらしく、あまり委員会室へと来なくなった。
そんなある日だった。
僕はこの日も遅い帰宅となり、暗い廊下を疲れ切りながら歩いていた。
すると、声が聞こえたのだ。
『ダメだ』
聞き間違えるはずのない七折先輩の声だった。思わず身を隠して、光が漏れている空き教室の中を伺う。するとそこには、七折委員長と――奈都君がいた。
『俺、大好きだからな』
『ああ、俺もだ』
僕は二人のやりとりに衝撃を受けた。七折委員長は、桜海先輩と付き合っているのではなかったのだろうか? 最初はそう思ったが、次に悲しくなった。僕は委員長に、好きだと言われた事なんてない。胸がズキリと痛んだ。思わず踵を返そうとした。すると、ガラリと扉が開いた。僕は一歩遅かったのだ。
「――! 伊澄」
「……」
「聞いていたのか?」
「……あの、誰にも言いません」
「何の話だ? どの部分を聞いていたんだ?」
七折先輩が眉を顰めた。僕は慌てた。
「え、えっと……奈都君と告白をし合って……」
「誤解だ。俺と簀河原は、共通したある人物が好ましいと話していただけだ」
それを聞いて、僕はホッと息継ぎをした。ならばきっと桜海先輩の話だったのだろう。だが、先輩が僕を好きでないのは変わらないのだ。そう思って先輩をみる。
「――最近は、赤くならなくなったな」
「……」
今は赤くなる気持ちでは無いから仕方が無い。俯いた僕に、七折委員長が歩み寄ってきた。そしてギュッと僕を抱きしめた。すると奈都君が出てきた。僕は見られてしまうと思って、焦ってもがいた。だが七折委員長の腕の力は弱まらない。奈都君は抱き合っている僕達を見ると言った。
「詩乃は、晴臣の恋人なのか?」
「え、違――」
僕は否定しようとした。桜海先輩に悪いと思ったし、委員長は僕を性処理係としか思っていないはずだからだ。だが、委員長がその時、僕の唇に指で触れたから、声を飲み込んでしまった。そして委員長がすっと目を細めながら、僕に言った。
「違うのか?」
「……」
「お前は自分が誰のものか、まだ分かっていなかったのか?」
「っ」
僕は赤面した。僕を覗き込んでいる委員長の顔が、あんまりにも綺麗だったからだ。ただ、どことなく冷たい顔で笑っている。それが少し怖い。
「分からせてやらないとならないな」
その後僕は、委員長に立たされた。奈都君とは、そこで別れた。
七折委員長に連れて行かれたのは、寮の七階にある、先輩の部屋だった。初めて入るその部屋は、僕の使っている二人部屋よりもずっと広い。
「こっちだ」
真っ直ぐに僕を寝室へと通した委員長は、すぐに僕を押し倒した。そして唇を貪る。久しぶりのキスにクラクラしていると、服をはだけられた。
「ぁ」
二本の指を僕に挿入し、七折委員長がバラバラに動かす。そうされるだけで、僕の体は蕩けた。随分と久しぶりだから、すぐに僕の体は熱を孕んだ。
「伊澄は誰のものなんだ?」
「あ……ああ……あ、ぁ……」
七折委員長の指が、僕の体を追い詰めていく。感じる場所を容赦なく責められて、僕は震えた。七折委員長はどこか残忍な顔をしている。
「お前は俺が好きなんだろう?」
「は、はい……」
「俺のものになるのは嫌なのか?」
「っ、ぁ……ン……僕は……ああ!」
「僕は? なんだ?」
「あ、あ、あ――や、あ、そこは――ッ」
「明日は週末だ。今夜、じっくりと教えてやる」
そう言うと、指を引き抜き、七折委員長が僕を貫いた。圧倒的な熱と質量に、僕はきつく目を閉じる。涙が零れていく。純粋に気持ち良かった。いつもより激しく、獣のように荒々しく、委員長が動く。僕は快楽が強すぎて、先輩に抱きついた。
「あ、あ、ああ! あ」
「今、誰のものが挿っているんだ?」
「あ、あ、委員長」
「名前を呼べ」
「七折先ぱ――あああ!」
「名前だ」
「や、ぁ、晴臣先ぱ――ああ、あ、あ……ぅ、ぁ、っく」
激しく動いて、先輩が僕の中に放った。震えていると、すぐに先輩のものがまた硬度を取り戻し、僕を激しく責め始めた。奥深くまで穿たれる。
「詩乃」
「あああ!」
感じる場所ばかり突き上げられて、僕はボロボロと泣いた。ただしがみついて震える事しか出来無い。
「お前は誰のもので感じているんだ?」
「あ、ハ……晴臣先輩、あ、あああ!」
「そうだな。どうして感じているんだ?」
「え? あ、あ、ぁ……あ、あ、ア!」
「――俺が好きだから、だろう?」
「やああああ!」
僕は果てた。肩で息をするが、先輩の動きは止まらない。続けて僕の絶頂を促すように激しく動く。快楽の本流が耐え難くて、僕は悲鳴を上げた。
「あ、あ、ああ、待って、まだァ、ァ」
「言ってみろ、俺が好きだと」
「晴臣先輩が好きです、あ、あ、あああ」
「もう一度」
「好き、好きだから、あ、あ、あン……!!」
「教えてやる。一度だけだ。お前は――」
七折委員長はそう言うと、動きを止めた。そして僕を見るとニヤリと笑った。
「俺のものだ」
その後さらに激しく動かれて、僕は理性を飛ばし、その夜は抱き潰された。
週が明けるまで、僕は委員長の部屋にいた。ほぼずっと繋がっていた。僕は散々啼かされて、『自分が委員長のものである』と覚えさせられた。僕は委員長を晴臣先輩と呼ぶ事に同意したし、詩乃と呼ばれるようになった。
気だるい体で、風紀委員会室へと行く。
晴臣先輩も一緒だった。これは書類が多すぎるから、委員長も書類仕事の側に加わるというのと、中には委員長のサインでなければならないものも増えてきたからである。書類仕事は、僕と委員長の仕事になった。
晴臣先輩は仕事が出来る。僕が一人だと一日かかっていた仕事を、三時間くらいで終わらせてしまう。その後は――僕を風紀委員長室へと引っ張っていく。
「まずは体にしっかりと覚え込ませておかないとな」
そう言って、僕を抱くのだ。僕は最近変だ。前以上に、晴臣先輩の体が無いとダメになってしまった。触れられるだけで体は熔けそうになるし、カクンと力が抜けてしまう。最近委員長は僕を散々焦らしてみたり、僕に懇願させたりばっかりする。僕は嫌われたくないから、委員長が大好きだから、いつも必死で従う。だが最近では理性を飛ばしてばかりで、上手く従う事すらできなくなった。この日も快楽にただ震えて泣いているしかできなかった。
「あ、あ……ああ……もう許して……許して、あ、できな――やぁァ!!」
泣きながら散々イかされて、僕は気絶した。
僕が目を覚ましたのは、扉の開閉音がした時だった。
「委員長、ちょっとヤりすぎじゃないの?」
その声にハッとした。必死で起き上がると、そこには桜海先輩がいた。僕は戦慄した。見られてしまった。僕も委員長も裸だ。
「詩乃の物分りが悪くてな。こいつは思ったよりも馬鹿だった」
「――溺愛してるのは分かるけどさ。囲いすぎ」
「……」
僕は思わず言った。
「あの、違うんです」
「「……?」」
「僕は、だから……その……性処理係で……」
「「!?」」
「お二人の邪魔をするつもりじゃ……」
自分で口にしていて、悲しくなってしまった。すると――二人が呆気に取られたような顔をした。最初に沈黙を破ったのは、桜海先輩だった。
「? まさかと思うから念のため言うけど、僕と委員長が付き合っているというのはデマだよ。性処理係というのは、何?」
「デマ……?」
「デマは、良いから。あのね、性処理係って――……ちょっと、七折、どういう事? きちんと好きだと伝えてないの?」
「毎日俺のものだと伝えているが?」
「なるほど、想像以上の馬鹿なんだね!」
桜海先輩はそう言うと、僕を生温かい目で見てから、諦めたように部屋を出て行った。僕は理解が追いつかない。
「性処理係なんて言葉をどこで覚えたんだ? ん?」
「あの……新入生歓迎会の時に……そう言われて……」
「不良どもの揶揄を気にするな」
「……」
「真に受けるな。お前は俺のもの――恋人だろうが」
「え……」
「不服か?」
僕は驚いて、それから何度も首を振った。嬉しかったからだ。
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