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第1話
パキリ。ポストから取り出したハガキに書かれた文字を見て、また一つ、自分の中の柔らかい部分にヒビが入った音がした。
映っているのは白いタキシード姿の同級生とドレスを着た奥さんだ。結婚式の招待状が随分前に届いていたが、無理矢理都合をつけて行かなかった。
(……前髪、やっぱ上げてる方が似合うじゃん)
スリ、と写真のオールバックの頭をなぞる。学生時代、ふと髪をかき上げた姿にときめいて、流れで想いを伝えた。勿論玉砕したけれど、変に茶化さず、変わらず友達でいてくれた彼には深く感謝している。
「…………結婚、か」
壮馬 には一生縁の無い単語だ。ポケットの中の携帯が震えて、画面を見ると見慣れたアプリの通知が届いていた。
『明日の夜会える?』
無気力そうな長身を思い出し、嘆息する。彼もきっと、もう結婚はしないだろう。結婚に縁遠い者同士、仲良くやっているのがお似合いなのかもしれない。エレベーターの中で返事を送る。
『21時に俺の家』
文字を打ち終えて携帯を戻そうとすると、間髪入れずに通知が届く。『了解』とだけ短く返ってきた言葉からは、それ以上の意図も感情も読み取れなかった。
チャイムが鳴ったのは提示した時刻を1時間過ぎた頃だった。
「おっせぇんだけど」
「悪い、帰りがけに捕まった」
シャワーを浴びて湿った頭を、ご機嫌取りのようにポンポンと撫でられる。その手に優しさや労りなんてものは無く、あるのは少しの打算と欲のみだ。手のひらが後頭部に回って、そのまま引き寄せて口づけられる。同時に腰に回された手に身を委ねた。
「ん……たまには玄関でする?」
「しねぇよ。アホか」
そう言いつつ、既にその気になっている彼が離してくれないことを知っている。フローリングに押し倒されて、パジャマの裾をめくり上げられた。片方の手首を頭の上で押さえつけ、乳首にしゃぶりつく。
「ん、ン、っ」
「……は、美味し」
「舌、バカになってんじゃねぇの」
コリ、コリ、と硬くなった乳頭を噛まれて腰が揺れる。いつの間にか下着まで脱がされて、尻の間に指を這わされた。風呂場で解してあったそこはすんなりと彼の指を受け入れる。
「このまま入れていい?」
「っ……ダメ、つっても入れるんだろ」
「うん」
言いながら手はベルトに伸びている。横向きに寝転んだ体勢で片脚を担ぎ上げられ、露出した性器の先端をぐりぐりと押し付けられる。努めて力を抜くと、呼吸のタイミングに合わせてずるりと太い物が体内に入り込んだ。
「あぁ、っは……っ」
「あー、気持ち……やっぱ壮馬の中最高」
「そうかよ……っあ」
ぐぷぷ、と遠慮無しに陰茎が奥まで入り込んで、壮馬の身体の中を蹂躙する。まだ馴染まないそこを楽しむように、彼が小刻みに性器を出し入れした。
「っ、い、ってぇ」
「痛いだけじゃないだろ」
彼が刺激しているのは、壮馬が感じやすい部分だ。敏感故に、痛みも快楽も拾いやすい。違和感はすぐに快感へと変わり、ちゅこちゅことローションで滑る肉棒が壮馬を責め立てた。
「ひっ、あ、うぁ、ん」
「今日はナカで行けそう?」
「し、知らな、――っ! あ、あ、はっ」
びくん、と身体がひとりでに痙攣しだした。上擦った声が喉から絞り出されて空気を震わせる。表に人がいないことを祈った。
「き、た、来たあぁ」
「うん、すげーうねってる」
逃げる腰を掴まれ、ゴリゴリと前立腺を捏ねくり回されて、身も蓋もなく喘いだ。ひくん、ひくんと中が震えて、一瞬息が止まる。次の瞬間、全ての音が遠くなった。
「――あ、あ、っ、あ」
「〜〜っ、あー、すげ、いい」
ガクガクと痙攣する身体を揺さぶられ、絶頂の最中に放り出された意識が再び現実へと引き戻される。しかし待っていたのは快楽に次ぐ快楽で、訳も分からないまま再び果てた。
「やぁあ、あ、――っ!」
「……っく、は」
中の収縮と同時に、彼も壮馬の中に射精する。全部残らず吐き出した性器を引き抜き、スッキリした顔で彼が立ち上がった。
「やっぱ壮馬は最高だわ。明日休み?」
「…………休みじゃない」
「なんだよ。2回戦行けるかと思ったのに」
肩を竦めてポケットからライターを取り出す。胸ポケットから煙草を取り出して、廊下のど真ん中で火をつけた。
「……泊まってくのかよ、今日」
床から起き上がり、服を整えながら尋ねる。中に出された精液の感触が気持ち悪い。彼は「うん」とさも当たり前のように頷いた。
(……どうせ、ついでに肉欲も満たせる宿くらいにしか思ってないんだろ)
彼、関理一は壮馬の恋人ではない。名前がつくような関係ではなく、強いて言うならセフレだった。ただ、一つだけ特筆すべきことがあるとすれば。
「なぁ、やっぱもう1回ダメ?」
収まんない、と立ち上がった腰を再び抱かれ、余韻に浸っていた身体は簡単に熱を持った。彼の骨ばった長い指が、服の隙間から素肌に触れてゾクゾクと背筋が震え上がる。
「……ダメって言っても、するんだろ」
「うん」といつものように言われることを期待して、可愛げの無い台詞を床に吐き捨てる。案の定肯定する言葉に安堵して、そっと彼の腕に身を委ねた。
向 壮馬はこのどうしようもないクズ男、関 理一 に対して、密かに好意を寄せていた。
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