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第2話

理一と出会ったのはマッチングアプリの中だった。ぼやけた顔写真を見て、とりあえず清潔感がありそうだし身長も申し分無し、と消去法で選んだのが彼だった。 「どーも」 手っ取り早く宅飲みの約束を取り付けて、自分の家に招いた。そこへ現れた男は、正直そこまで好みではなかった。所詮一夜の遊び、性欲を発散できればそれでいい。そう思っていた。 実際、身体の相性はとても良かった。初めてとは思えない程すんなりと受け入れられて、壮馬も理一も驚いていたのを覚えている。初回は理一も控えめで、終わった後に「……もう1回いい?」と恐る恐る尋ねてくる姿は可愛いと思った。 そこからはもうなし崩しで、どちらかが誘ってセックスする、といった関係がズルズルと続いた。一夜限りと思っていた関係が終わらないことにだんだんと違和感を覚え始めたが、快楽の前には逆らえなかった。そうして週の半分は二人でどちらかの家にいることが多くなった。 「え、お前既婚なの?」 「バツイチな。今はフリー」 てっきりゲイだと思っていた彼は、どうやら前は女性と付き合って結婚までしていたらしい。煙草はパカパカ吸うし時間は守らないし、こんな男が家庭を持っていたことは衝撃だった。 「子供は?」 「いるよ。向こうが親権持ってったから会えないけど」 ほんの僅かに見せた寂しそうな顔にグッときて、気づけばこちらからキスをしていた。理一は少しだけ驚いたように目を見開いて、壮馬の頭を掴んだ。引き剥がされるのかと思いきや、そのままぐっとかき抱かれて口付けが深くなる。濃い煙草の臭いに噎せそうだった。寂しさを埋めるように、その日のセックスはしつこく責め立てられた。 その辺りから、壮馬の中で理一に対する情が湧き始めた。 仕事で疲れたと愚痴を聞かされれば黙って聞いてやったし、腹が減ったと言われれば飯を作ってやった。どれだけしたくても「疲れた」と口にしたらそのまま寝かせてやったし、逆にこちらが疲れていても求められれば必ず応えた。 ただのセフレにのめり込み過ぎている。自覚はあったが、今さら離れるという選択は出来なかった。もう何もかもが遅過ぎた。 ある夜、『今から来れる?』と端的かつ急過ぎる誘いを受けてのこのこと彼の家を訪れると、彼は随分と酔っ払っていた。理由を聞くと「仕事相手にしこたま飲まされた」のだと言う。煙草は吸っても酒は飲まない、と言っていた彼とは結局、初回以来酒を飲んでいない。珍しい姿に少し好奇心が湧いてきて、そのまま泊まっていくことにした。 「んぁ、飲み過ぎて勃たないかも」 「だろうな。なんで呼んだんだよ」 ベッドに連れ込まれたが、身体を撫でるだけで何もしてこない。合理性の無い行動に苦笑しつつ問いかけると、彼は眠そうに目を瞑りながら答えた。 「……なんとなく」 本当に何も考えていなかったのだろう。なんとなく人肌恋しくなって、なんとなく目についた壮馬に声をかけただけ。その無意識の一番上に自分を置いてくれているのが、どうしようもなく嬉しかった。 「……お前、誰かと付き合うつもりねぇの」 朦朧としているのを承知の上で尋ねる。ふわふわと揺蕩う意識の中で、理一が出した結論はこうだった。 「今は……いいや。ていうか、恋愛は当分、いいや」 元妻と何かあったのだろう、ということは聞かなくても分かった。今壮馬が好意を伝えたら、きっと理一は距離を置いてしまう。苦しくても、この想いはしまっておくしかないのだ。彼の重荷にならないよう、腕枕から慎重に抜け出して布団を被り直した。

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