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第3話

ベッドへうつ伏せに放り出され、折角着直した服を再び剥がされた。伸ばした太腿の上にドサリと体重がかかって、後ろからズブズブと熱い楔を打ち込まれる。 「は、っ〜〜あ、ぁ」 上から穿つようなこの体位は、壮馬も理一も気に入っていた。大体最後はこの体勢になって、二人でただ快楽を追う行為に没頭する。 「ふぅー…………」 ベッドサイドに置かれた綺麗な灰皿に、吸いさしの煙草が置かれる。彼が本気になる時の合図だった。頭の横に両腕をついて、ぐっと体重をかけて腰を打ち付けてくる。 「あッ、あ、あ」 ギシ、と高くも安くもないベッドが軋んだ。自分の声を聞きたくなくて枕に顔を埋める。理一はそれを咎めるようなことは一度もしなかった。声が聞きたいとか我慢しなくていいとか、その類の言葉が出たことはない。ただ自分が気持ちよくなれればそれでいいのだ、彼は。 「は、っあ、いく、イく……っ!」 ギュッと全身が硬直して、胎内が理一の陰茎を締め付ける。官能に打ち震える壮馬を気にも留めず、理一は腰を振り続けた。 「ああ゛ぁっ、あ、ああっ」 やめろという言葉さえ口に出来ず、頭を振り乱して善がり狂った。理一はそんな壮馬を気にも留めない。 しばらく後、理一が中に欲を吐き出したことでようやく責め苦から解放される。全身が重だるく、明日の仕事に響きそうだった。1ミリたりとも動きたくない。が、中に出された物を掻き出すために立ち上がった。自分の指を後ろに突っ込んで、2回出された精液を掻き出す。この作業が一番虚しい。 「壮馬は本当に、身体の相性だけは合うよな」 新しい煙草に火をつけながら、理一が事もなげにそう言った。ずくりと胸の奥が痛んだのを感じながら、やっとのことで「そうだな」と返事を吐き出す。 趣味はことごとく合わない。酒飲みと愛煙家、辛党と甘党、犬派と猫派。同居なんかしたら、一週間でストレスが溜まって爆発する自信がある。それくらい合わなかった。だというのに身体の相性だけはすこぶるハマった。壮馬も、恐らく理一も、今は互い以外に寝ている相手はいないだろう。それで充分だと思うことにしていた。 「んで、転職上手く行きそう?」 「…………全然」 クソ上司にパワハラモラハラセクハラのフルコースを受け、胃に穴を開けて退職した壮馬は絶賛転職活動中だった。一応繋ぎでアルバイトはしているものの、いつ首を切られるか分かったものではない。合間に求人を見つけて応募しては蹴られ、の繰り返し。給与も休みも少ないし、正直言ってしんどかった。 「俺みたいにフリーランスの方が向いてるんじゃないの」 理一は何とかかんとかコンサルタント、みたいな横文字の職業を名乗っている。色んな人の相談を受けて金を貰う仕事らしい。一体何がどうなって金銭が発生しているのかサッパリだが、彼曰く儲かるらしい。事実、彼は立地のいいマンションに住んでいる。 「無理。ストレスで死ぬ」 逆に、壮馬は社畜の方が向いているという自負があった。自分は上に使われているくらいがちょうどいい。自分で仕事を受けて報酬の交渉をして、なんて出来る気がしなかった。 「ハハハ、養ってやろうかぁ?」 「馬鹿にすんなよ、自分の食い扶持くらい時分で稼ぐっつうの」 口ではそう言いつつも、プライドを捨てて縋りついてしまいたくなる程、今は参っていた。これ以上優しくされたくなくて、布団を引っ被って会話を拒否する。 「……いや、本当にさ。俺の家、一緒に住まない?」 放たれた言葉に耳を疑った。自分に都合の良い幻聴が聞こえているのでは、と一度はそれを黙殺する。 「給料出すからさ。日中に家事しといてくれると助かるんだけど」 思っていた展開とは違った。だが、それでも信じ難いことに変わりはない。 「……寝言言ってんのか?」 「ガチだって。専属家政夫、どう?」 ぐら、と気持ちが揺らいだ。これ以上踏み込んではいけない。頭では分かっているのに、差し出された甘い果実に手を伸ばさずにはいられない。 「…………いくら?」 この世は地獄だ。理一が「要相談で」と耳元で言って、壮馬の身体を布団ごと抱き締めた。

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