翌日の昼まで清正の家で過ごし、午後になってから秩父にある工房にクルマを走らせた。 　村山樹脂は特殊な樹脂制作を請け負う個人の工房で、雑貨の試作品製作を多く手掛けている。 　工房主の村山は三十代後半の背の高い痩せた男で、独自に開発した樹脂などの比較的新しい素材を扱っている。 　そのわりに職人気質で頑固だった。 　光も相当頑固なので何度も言い争いになって、付き合いが途絶えかけたこともある。 　けれど、結局はいいモノを創りたい気持ちは同じで、村山が代替案を出したり、一度はダメだと断った内容を再検討したり、あるいは光がデザインの一部を考え直したりして歩み寄る努力を重ね、最終的にお互いが納得できる製品を作りだしてきた。 　今では強い信頼関係で結ばれている。 「おい。日曜日だぞ」 　工房のドアを叩くと、髭も剃っていない村山が呆れたように出迎えた。 「だって、いると思ったし」 「いるにはいるけどよ」 　休みの概念がないのはお互い様かと諦めたように笑って、光を作業場に招き入れる。 「例のやつだろ」 　依頼主ごとに試作品を管理している鍵のかかった保管庫から、光が頼んでいた照明器具の見本を出して運んできた。 「こんな感じでどうだ？」 　四角い物体の角の部分を指して村山が聞く。 　一見カッチリと尖って見える部分がわずかにカットされている。その部分を指で触れて、光は頷いた。 　村山が同じデザインの別の試作品を取り出す。 「そっちは目立たないように薄くカットしたほうな。で、こっちはカットした部分をはっきり生かしたやつ。おまえの指示通りの寸法で作ってある」 　光はそれも手に取った。コーナーが三角形にカットしてある。まっすぐなラインがプリズムのように光を反射する。 　光は最初の製品を指差した。 「今回のデザインなら、やっぱりこっちだ」 「うん」 　村山も満足そうに頷いた。 「全体が透明なデザインなら、カットが大きいほうも悪くないが……」 　村山の感想に「さすがだね」と笑った。けれど、その直後に光は唇を噛んで視線を落とした。 「どうした？」 「……せっかく作ってもらったけど、これ、商品にならない」 「なんでだ？　すごくいいじゃないか。依頼先が断ってきたのか？」 　もともと、依頼品ではないのだと告げた。それでも、これならどこででも引き取り手があるだろうという村山に、黙ってスマホを見せた。