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 発表が三月中。ならば、締め切りはいったいいつになるのだ。 「作品の提出締め切りは来月末。プレゼンボードと試作品をいくつか出してもらう。光のスケジュールが一番きつくなっちゃうけど、まあ、できるよね?」  にっこり笑う堂上に唖然として言葉を失う。  簡単に言ってくれる。  ふだんの依頼仕事でも、引き受けるかどうか迷うレベルの厳しさだ。  だが、締め切りまでのスケジュールを頭に描き始めた時点で、自分は堂上の話に乗るつもりでいるのだと気付いた。  同時に、堂上の言っている意味を理解した。  仕事の速さとやる気も含め、目的に適う人材を求めているのだ。 「此花を参加させるのは、時期尚早です」  松井が口を挟んだ。顔が少し引きつっている。 「若手に限定すると仰っていますが、ほかの参加者は此花より上の世代の、業界内でも名前の通った人ばかりです。社会人五年目の無名デザイナーが参加するのは、いくらなんでもほかの方に失礼ですよ」 「でも、僕は光にも参加してほしいんだよ。それに、このメンバーの中で光がグランプリなんか取ったら、すごく面白いと思わない?」 「取れると思ってらっしゃるんですか? いくらなんでも無理ですよ」  松井が鼻で嗤う。下手をすれば宣伝目的の出来レースだと思われかねないと言い添えた。 「そうだね。雑誌やネットニュースでも取り上げてもらえるように、手回ししてあるしね」  社内の人間が選ばれた場合、出来が納得できないものであれば批判が集中するだろう。ということは、ほかの誰もが納得するような圧倒的な作品でなければ、光や松井の作品は選べない。  全体を並べた時、どれがいいかと言われればそれが一番、という程度の作品ではだめなのだと続けた。 「よほどいいものじゃなかったら、逆に叩かれて、せっかくのコンペも新ブランドのイメージも台無しになる。光と松井くんは、みんなより不利になると思ってくれていいよ」  光たちに限らず、納得できる作品がなければ、堂上はグランプリを出さないだろうと思った。  協賛したメディアに叩かれても、堂上ならきっとそうする。この男が求めているのは生半可なものではないはずだ。  妙な圧を感じて視線を上げると、松井が鬼の形相で光を睨んでいた。  光も睨み返した。  色素が薄く、氷のようだと言われる目で。 「負けないから」  松井の低い声に、口元を歪めた。 「アイディアが浮かばなかったら、いつでも盗みに来いよ。ただし、その時はそのまま使え。俺がデザインしたものを勝手に変えるな。今度、俺の作品を殺したら、あんたを、俺が殺してやる」  ぱん、と平手で頬を張られた。周囲から視線が集まるが、光は松井を睨んだまま一歩も動かなかった。  二人のやり取りを見ても堂上は平然としている。しんと張り詰めた空気もまるで意に介することなく、変わらない声で言い添えた。 「女性誌とコラボする関係で、テーマがある」 「テーマ?」  堂上は、光の顔を見てにこりと笑った。 「テーマは『恋』だよ」 「恋……?」  怪訝な顔でぼんやりと呟く光を、何かを企む目で堂上は見ていた。 「詳細の説明をするから、ついておいで」  ようやく社長室に向かって歩き始めた男の本当の狙いは何なのか。少し気になったが、堂上の思惑など考えてもわからないだろう。  早々に諦めて、現実的な話を聞くために背の高い男の後をついていった。

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