52 / 119
【11】-5
無理強いされなかったのがよかったのか、汀は残さず野菜の煮物を食べた。
空になった小鉢を見せて誇らしげに胸を張る。
「いい子だな」
清正が汀の頭を撫でた。
「清正、本当に料理が上手いよな」
「ん? そうか?」
「煮物も味噌汁も胡麻和えも、全部、美味かった」
「なら、よかった。胃袋を掴むと最強らしいからな」
にっと笑った顔がどこか凶悪で、心臓がヘンな感じに跳ねた。
光が食器を片づけている間に、清正が汀を風呂に入れ、清正が汀を寝かしつけている間に、光も風呂に入った。
風呂から上がると、日本酒を手にした清正がリビングのソファに座るところだった。
薩摩切子のグラスが二つテーブルの上に並んでいる。
「次長が餞別にくれた。故郷の地酒らしい」
グラスに誘われるように、光も清正の隣に腰を下ろした。
清正が冷酒を注いでくれる。口にを含むと、すっきりとした甘さとフルーティな香りが口の中に広がった。
「清正って、けっこう酒飲む?」
「どうかな。家ではほとんど飲まないか。汀が生まれてからは、飲み会も行ってないし」
「ふうん」
「なんで?」
「なんか、こうやって飲んだことないなぁと思って」
清正が光のグラスに酒を|注《つ》ぎ足す。
「少し勢いをつけようかと思ってさ」
「何の?」
グラスを置いて、清正が距離を詰めてきた。光の手からもグラスを取って、勝手にテーブルに置く。
「何するんだよ」
「おまえ、この前俺が言ったこと、忘れたのか」
何か言われただろうか。
本気でそう思った。
「マジで、忘れたんだな」
「え、えっと……」
清正の手が腰に回る。
「一度触ったら我慢できなくなるって言ったただろ。これからどうなっても、全部光のせいだって教えたはずだ」
「え……。だ、だって、おまえ、男とは……、したこと……」
「ないよ。たぶんゲイでもない」
「だったら、なんで……」
「しょうがないだろ。俺だってわかんないんだよ。ずっと困ってるんだ」
光にしか欲情しないと言われてパニックになった。
何を言っているのだ、さんざん多くの女性と浮名を流しておいて、ぬけぬけと勝手なことを言うなと責めれば、たまたま誘われて流されただけだと、言い訳にもならないことを言う。
その間に、一度軽く唇を啄まれた。
「な、な……」
「そろそろ黙れ」
再び、今度は少し強く唇を塞がれ、ソファに押し倒された。
何が起こっているのかわからなかった。
顎を掴まれて口を開かされ、口の中を舐められる。舌先が触れ合った瞬間、頭の芯で火花が弾けた。
感電したかと思うくらい身体中がビリビリ痺れた。
「ん、ん、んん……っ」
もがいて押し返そうとすると、パジャマの裾から清正の手が忍び込んでくる。
するりと脇腹を撫でられて、心臓が跳ねるのと同時に「あ……」とへんな声が零れ落ちた。
ともだちにシェアしよう!