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【11】-5

 無理強いされなかったのがよかったのか、汀は残さず野菜の煮物を食べた。  空になった小鉢を見せて誇らしげに胸を張る。 「いい子だな」  清正が汀の頭を撫でた。 「清正、本当に料理が上手いよな」 「ん? そうか?」 「煮物も味噌汁も胡麻和えも、全部、美味かった」 「なら、よかった。胃袋を掴むと最強らしいからな」  にっと笑った顔がどこか凶悪で、心臓がヘンな感じに跳ねた。  光が食器を片づけている間に、清正が汀を風呂に入れ、清正が汀を寝かしつけている間に、光も風呂に入った。  風呂から上がると、日本酒を手にした清正がリビングのソファに座るところだった。  薩摩切子のグラスが二つテーブルの上に並んでいる。 「次長が餞別にくれた。故郷の地酒らしい」  グラスに誘われるように、光も清正の隣に腰を下ろした。  清正が冷酒を注いでくれる。口にを含むと、すっきりとした甘さとフルーティな香りが口の中に広がった。 「清正って、けっこう酒飲む?」 「どうかな。家ではほとんど飲まないか。汀が生まれてからは、飲み会も行ってないし」 「ふうん」 「なんで?」 「なんか、こうやって飲んだことないなぁと思って」  清正が光のグラスに酒を|注《つ》ぎ足す。 「少し勢いをつけようかと思ってさ」 「何の?」  グラスを置いて、清正が距離を詰めてきた。光の手からもグラスを取って、勝手にテーブルに置く。 「何するんだよ」 「おまえ、この前俺が言ったこと、忘れたのか」  何か言われただろうか。  本気でそう思った。 「マジで、忘れたんだな」 「え、えっと……」  清正の手が腰に回る。 「一度触ったら我慢できなくなるって言ったただろ。これからどうなっても、全部光のせいだって教えたはずだ」 「え……。だ、だって、おまえ、男とは……、したこと……」 「ないよ。たぶんゲイでもない」 「だったら、なんで……」 「しょうがないだろ。俺だってわかんないんだよ。ずっと困ってるんだ」  光にしか欲情しないと言われてパニックになった。    何を言っているのだ、さんざん多くの女性と浮名を流しておいて、ぬけぬけと勝手なことを言うなと責めれば、たまたま誘われて流されただけだと、言い訳にもならないことを言う。  その間に、一度軽く唇を啄まれた。 「な、な……」 「そろそろ黙れ」  再び、今度は少し強く唇を塞がれ、ソファに押し倒された。    何が起こっているのかわからなかった。  顎を掴まれて口を開かされ、口の中を舐められる。舌先が触れ合った瞬間、頭の芯で火花が弾けた。    感電したかと思うくらい身体中がビリビリ痺れた。 「ん、ん、んん……っ」  もがいて押し返そうとすると、パジャマの裾から清正の手が忍び込んでくる。  するりと脇腹を撫でられて、心臓が跳ねるのと同時に「あ……」とへんな声が零れ落ちた。

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