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【11】-6
「いい声」
笑いを含んだ声が囁く。
唇が首筋を辿る。
身体の形を確かめるように長い指が肌の上を移動した。
腰骨を撫でられて、ふだんは定期的に処理するだけで、ほとんど放置している場所が熱を持ち始める。
「や、やだ。清正……、なんでこんなこと」
「本当に嫌だったらやめる。どこまでなら、していい?」
「ど、ど、どこまで……?」
どこまでって、何がだ。
「わ、わかんない」
泣きそうな声で答えて首を振ると、清正が呻いた。
「予想はしてたけど、おまえ可愛すぎるぞ。いきなり全部受け入れろとは言わないけど、いつまで我慢できるか自信ない」
ぎゅっと抱きしめられて、こめかみにキスが落とされる。
「ああ、やばい。今すぐめちゃくちゃにしたい」
「や、やだ……」
しがみつくように清正のパジャマを掴んだ。いやだと繰り返すと、「バカだな。大丈夫だよ」と優しく背中を撫でられた。
「待つよ。さんざん待ったんだ」
「さんざん?」
ああ、と耳元で声がした。
「おまえに会った時、世界にはこんなに綺麗な生き物がいるんだって驚いた。絶対に汚したくないって思った。だから、ずっと俺のそばに置いて守ろうって決めた」
「な、何それ。いつ……」
「だから、中二の時だよ」
最初からだ、一目ぼれだったと言う。
「はじめは女の子だと思ってたから、男ってわかった時はちょっとびっくりしたけど」
「なんだよ、それ」
「でも、気持ちは変わらなかったな。時間が経つほど、なんでこんなに純粋で汚れてないんだろうって感動したし」
「感動って、おまえ……」
大袈裟だ、と目を逸らすと清正が笑う。
「感動して、綺麗なまま俺が守るって決心したのに、なんかこうむらむらして、おまえに触りたいしキスしたいし、もっとすごいこともしたいしで……」
「ええっ?」
聞いてない、と目を見開けば「青い麦の思春期は、けっこう大変だった」と何の告白かわからないことを言われた。
「大事にしたいのに、欲しくて仕方なかった」
熱をはらんだ黒い目が、光の目を見つめた。
「光……」
「……な、なに?」
「好きだ」
ふいに、中二の時の記憶がよみがえった。出会って間もない頃の、お揃いのブックカバーを女子にからかわれた時の記憶だ。
「……あの時も、清正、同じこと言った」
「あの時?」
「ブックカバー破かれて、俺が泣いた時」
一瞬、目を見開いてから、清正が笑う。
蜂蜜を溶かしたような金色の笑顔だ。
「ちょっと前に言ったことは忘れるくせに、そんな昔のことは覚えてるのか」
「覚えてる。ヘンな意味じゃないって言った」
ヘンな意味ではない。
ずっと友だちだと清正が言ったから、光はそれを信じた。なのに……。
「あれは、嘘だ」
「えっ! う、嘘……?」
「うん。嘘」
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