53 / 119

【11】-6

「いい声」  笑いを含んだ声が囁く。  唇が首筋を辿る。  身体の形を確かめるように長い指が肌の上を移動した。  腰骨を撫でられて、ふだんは定期的に処理するだけで、ほとんど放置している場所が熱を持ち始める。 「や、やだ。清正……、なんでこんなこと」 「本当に嫌だったらやめる。どこまでなら、していい?」 「ど、ど、どこまで……?」  どこまでって、何がだ。 「わ、わかんない」  泣きそうな声で答えて首を振ると、清正が呻いた。 「予想はしてたけど、おまえ可愛すぎるぞ。いきなり全部受け入れろとは言わないけど、いつまで我慢できるか自信ない」  ぎゅっと抱きしめられて、こめかみにキスが落とされる。 「ああ、やばい。今すぐめちゃくちゃにしたい」 「や、やだ……」  しがみつくように清正のパジャマを掴んだ。いやだと繰り返すと、「バカだな。大丈夫だよ」と優しく背中を撫でられた。 「待つよ。さんざん待ったんだ」 「さんざん?」  ああ、と耳元で声がした。 「おまえに会った時、世界にはこんなに綺麗な生き物がいるんだって驚いた。絶対に汚したくないって思った。だから、ずっと俺のそばに置いて守ろうって決めた」 「な、何それ。いつ……」 「だから、中二の時だよ」  最初からだ、一目ぼれだったと言う。 「はじめは女の子だと思ってたから、男ってわかった時はちょっとびっくりしたけど」 「なんだよ、それ」 「でも、気持ちは変わらなかったな。時間が経つほど、なんでこんなに純粋で汚れてないんだろうって感動したし」 「感動って、おまえ……」  大袈裟だ、と目を逸らすと清正が笑う。 「感動して、綺麗なまま俺が守るって決心したのに、なんかこうむらむらして、おまえに触りたいしキスしたいし、もっとすごいこともしたいしで……」 「ええっ?」  聞いてない、と目を見開けば「青い麦の思春期は、けっこう大変だった」と何の告白かわからないことを言われた。 「大事にしたいのに、欲しくて仕方なかった」  熱をはらんだ黒い目が、光の目を見つめた。 「光……」 「……な、なに?」 「好きだ」  ふいに、中二の時の記憶がよみがえった。出会って間もない頃の、お揃いのブックカバーを女子にからかわれた時の記憶だ。 「……あの時も、清正、同じこと言った」 「あの時?」 「ブックカバー破かれて、俺が泣いた時」  一瞬、目を見開いてから、清正が笑う。  蜂蜜を溶かしたような金色の笑顔だ。 「ちょっと前に言ったことは忘れるくせに、そんな昔のことは覚えてるのか」 「覚えてる。ヘンな意味じゃないって言った」  ヘンな意味ではない。  ずっと友だちだと清正が言ったから、光はそれを信じた。なのに……。 「あれは、嘘だ」 「えっ! う、嘘……?」 「うん。嘘」

ともだちにシェアしよう!