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【11】-7
嘘だよ。
短い言葉と一緒に唇が触れる。
そっと促されて開いた歯の間に、熱い舌が差し込まれて意識が蕩ける。竦む舌を絡め取られて胸が痛くなった。心臓が苦しい。
「ん……」
一度逃れて、すぐにまた唇を塞がれた。
「光が好きだ」
合間に清正が囁く。
「好きだ」
最後は少し笑いながら「ヘンな意味で」と囁いて、もう一度口づけた。
肌の上を手のひらが滑り、心臓がドキドキと鼓動を速める。初めて知る官能の甘さに、自分がどうにかなってしまいそうな心細さを覚えた。
助けを求めるように清正の名を呼んだ。
縋るように腕を回すと、きつく抱き返されていっそう苦しくなった。
それでも、何度も背中を撫でられるうちに少しずつ安堵に似た気持ちが広がってゆく。
光はいつも、清正の腕の中にいれば安心だった。このままずっと、清正に抱きしめていてほしい。
ドキドキと甘い痛みが幸福な安堵に変わってゆく。
けれど、次の瞬間、下肢に湿ったような熱を感じて、ギクリと身体が強張った。硬く熱いものが脚に……。
「な、な……。これ……っ?」
「光、もっとこっちこい」
「え……? あ、あ……っ」
敏感な場所に熱の塊を押し付けられて、頭が真っ白になった。
「い、いや……だ。清正……っ!」
何をするんだ、と全身をゆでダコのように真っ赤にして、叫んだ。
「き、清正……、清正、あ……っ」
「もっと、こっち」
「ぎゃあ、わ……、や、やめろ、バカ! あ、あ、バカ清正……!」
離せと叫んで、清正を叩いているうちに、ゴトンと頭がソファから落ちる。ようやく清正が身体を離した。
「そんなに嫌か?」
「嫌だ」
「なんで? ちゃんと硬くなってたじゃないか」
だからだ、と床に落ちたまま目で訴える。
光を抱き起こし、赤くなった顔を覗き込みながら、清正がもう一度「なんで?」と首を傾げた。
視線を逸らしてぼそりと答えた。
「恥ずかしい……」
だから、嫌だと言うと、はあっと清正が盛大なため息を吐く。
「ああ、俺、もう、どうしよう。どうしたらいい?」
「何が?」
「光が可愛すぎて死ぬ」
バカ、と足を蹴った。
「いいよ。わかった。ずっと、壊さないように守ってきた宝物だもんな。大事にするよ」
清正がかがみこんで光を抱き起こした。
「せっかくだからな、大事に大事に、少しずつ味わって食べさせてもらう」
「少しずつって……」
「今日はここまで。明日から、また少しずつ頑張ろうな」
ポンと頭に手を載せられ、何をどう頑張るのかわからなかったが、とりあえずこくりと頷いた。
清正がおひさまみたいににこにこと笑う。
何が何だかわからなくなってきた。
「なんか、ぼうっとするし、くらくらする。少し酔ったかもしれない……」
そうだ。きっと、酔ったのだ。
清正が頬と耳にキスをするのを、ぼんやり受け止めた。
「大丈夫か」
「ん……」
広い胸を手で推してふらふらと立ち上がる。
「寝る」
「わかった。気をつけて行けよ」
うん、と頷き、半分夢の中にいるようなおぼつかない足取りで階段をゆっくり上がっていった。
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