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【13】-6

 一日遊んで疲れたのか、汀はケーキを半分食べたところで舟をこぎ始めた。  寝るなら歯磨きするぞと清正が声をかけるが、頭が揺れるだけで目を覚まさない。仕方ないなと抱き上げて、清正が汀を二階に運んでいった。  光は村山の工房で受け取ってきた四角い照明器具を箱から出した。  戻ってきた清正が手に取る。汀の誕生日に間に合うように試作を頼んでいたのだと教えた。 「うん。こっちのほうが、ずっといいな」  軽くて安全で、扱いやすいと頷く。面取りした角を指で確かめ「サンキュー」と言って微笑んだ。 「ワインがあるぞ」  主役はもう寝たのにと言うと、固いことを言うなと清正は笑った。 「おまえ、飲むとエロくなるんだもん」 「飲まなくてもエロくなる。言わなかったか?」  光を立ち上がらせて、啄むようにキスをした。  キスは好き? と清正が聞く。  光は素直に頷いた。 「キスは好き? 逆から読んでも?」 「え? キスは好き?」  ふはは、とつい笑ってしまった。バカだ、と言うと「好きだよ」と囁いた清正が、唇を塞いだ。  何度も繰り返しキスをしながら服の下に手を滑り込ませた。 「ん……」 「光」  和室の畳の上に転がされて、覆いかぶさる清正に深く口腔を犯された。服の下を滑る指が身体の線をたどり、胸の飾りをそっと摘まんで押しつぶす。 「あ、ん……」  絡む舌にぼうっとなりながら、腕を伸ばして清正にすがった。 「清正……」  好きだ。  ずっと、好きだった。  広い背中に腕を回した。テロンとやわらかいジャージの表面がするする滑って、うまく掴めないことがもどかしかった。  ジャージごと清正がどこかに行ってしまいそうで不安になった。  ほかの人にも、こんなことした? 心の中で声がした。  イエスの答えなど聞きたくないから、口には出さなかった。いつか失う日が来るとしても、今はこうしていたいと思った。  そう願うのは、失うことが怖くないからではないのだと、今になってわかった。  ただ触れて欲しくて、キスをしてほしくて、先のことなど考えられなくなるのだ。もっと近くに行きたくて、清正が欲しくて、今だけが全てになる。  清正の彼女だった誰もかれもが、みんなそうだったのだ。  朱里の穏やかな笑顔が瞼に浮かんで、どうして彼女は、自分から清正を手放したのだろうと、甘いキスを繰り返しながらぼんやりと思った。

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