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【14】-1

「ひかゆちゃん、みて」  大きな丸い型抜きの上に、一回り小さい型抜きを載せて汀が光を振り向いた。 「おお、すごいな」  二段重ねの砂のケーキだ。汀はさらに三段目を載せようとしたが、先に下の段が崩れた。 「あ。ちっぱい」  誕生日ケーキの箱に添えられていた店のパンフレットに、ウエディングケーキの写真が大きく載っていた。三段重ねの華やかなケーキだ。  キラキラした目でそれを見ていた汀は、翌日から庭の砂場でケーキ作りに没頭し始めた。  毎日黙々と試行錯誤を繰り返している。飽くなき挑戦は、今日で三日目。なかなかの執念深さだ。  砂の型抜きを三段重ねるのは、大人でも至難の業だ。  初めは手を貸そうと思ったが、汀が型抜きに関して並々ならぬ矜持を持っていることに気づいた光は、最小限のアドバイスに留めて成り行きを見守ることにした。 「もぉいっかい、ちゅくゆよー」  宣言して光を振り向く汀に「うん。やってみな」と頷いた。  汀の誕生日会の後、和室の畳の上で清正に押し倒された。  キスをされ、パジャマの内側に手を入れられて肌を探られた。さらに、そのままの勢いで、下着の中の欲望にまで直に触れられてしまった。    光は大いに慌てた。  触られただけでもパニック状態なのに、あろうことか清正は『舐めてやろうか』と耳元で囁いたのだ。  気付いた時には清正を突き飛ばし、悲鳴を上げて逃げ出していた……。  嫌だとか気持ち悪いとか、そんなふうに思ったわけではない。まだ自分でも知らない剥き出しの何かが、いきなり清正の前に晒されたようで怖かったのだ。 (あんなこと……)  思い出すと未だに顔から火が噴き出す。  砂場の横にはバケツに汲んだ水と乾いた砂が置かれていた。砂の固さを調節するためのものだ。  光がやり方を教え、二日目からは汀が自分で用意している。小さな身体でバケツを運び、砂の山を作って作業場を整えていた。  汀は真剣な表情で砂の固さを確かめ、水を足したり砂を足したりして湿り具合を整えて型に詰め始める。  頭で考えるのではなく、手の感覚で砂の固さを調整していた。  初めのうちは水を足しすぎたり砂が多すぎたりしていたが、今ではすっかり手が覚え、型の中の砂は汀が求める固さに整えられている。  迷いのない手つきはすでに職人のようだ。  勢いよく型を返すと衝撃で下の段が崩れるのは大人がやっても同じだ。  光は、下敷きを使って蓋をする方法を教えた。  砂を詰めた型に蓋をし、両手で端を押さてそっと逆さまにする。それを一段目の砂の上に載せてから下敷きを引き抜くのだ。    一度やってみせた後、何度か汀にやらせた。一度うまくできてからは一人で練習を重ね、技術に磨きをかけていた。  そうして昨日は二段目まで成功した。  今も二段まではうまくできた。崩れている場所もなかった。    次はいよいよ三段目だ。  それにしても、ここまで高度な型抜きを習得した四歳児は、世界広しと言えども汀しかいないのはなかろうか。  そう思うと、光はなにやら誇らしい気がした。

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