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【15】-1

 和室に布団を敷いてやると、汀は泣きながら眠ってしまった。汗で湿った髪を撫でて、清正が深く息を吐く。 「汀が泣くことなんか、滅多にないから……。何をされたのかと思った」  怪我をしたわけではなくてよかった。息を吐いた清正に、光は複雑な気持ちになった。  確かに怪我はしていない。  それ自体はよかったと思う。でも……。 「俺、汀が作ったケーキを見たかった」  布団の上から汀に触れて唇を噛んだ。「本当にできてたんだ」と呟くと清正は笑って「また作ればいいさ」と言った。  光は顔を上げた。 「清正、それは違う」  違う、と繰り返して首を振った。 「清正は、もし汀を奪われても、また誰かに産んでもらえばいいと思えるか?」 「そんなわけないだろ!」 「それと同じなんだよ!」  ものを作るということは……。  代わりはきかない。  自分が信じる最高の形を作れたとしても、壊れてしまえば命がそこで終わる。  一点ものだとか量産品だとかは関係なく、そこに吹き込まれた命があるべき形を失えば、みんな死ぬのだ。  絵も音楽も小説も詩も。  雑貨のデザインや砂のケーキも。  そこに宿った命が歪められれば死んでしまう。  次に作られるものは別の新しい命であって、どんなに望んでも、どんなに似ていても、同じものは二度とは現れない。 「何かを作るって、そういうことだ。汀はそれをしたんだ」    じっと光を見ていた清正がうつむく。 「そうか……。悪かった」  布団の上に少し出た小さな手。それを、清正は愛しげに包んだ。   「俺も見たかったよ」 「うん」  ところでさ、と光は話を変えた。  先ほどから引っ掛かっていることがある。 「清正、社長と会ったことあるの?」 「ああ」 「いつ?」 「おまえがデザインを盗まれたって言った時」  光の話を聞いて、清正はすぐに堂上に会いに行ったという。  盗作が事実ならば立派な犯罪だ。堂上にも責任があると思ったからだが、清正の話を聞いても、『証拠がないんだよねぇ』と堂上はとぼけた。  すでに光から聞いた話は信じていて『光の言ったことは本当だと思う』と言いながら、証拠がないから動けないのだと肩を落としてみせたという。  何やら怪しい。 『残念だが、絶対言い逃れができない証拠を見つけない限り、松井くんは認めないだろう』  堂上は言い、証拠さえ見つければ罪に問う用意はあると、暗に匂わせた。 「それって、清正に、その証拠を見つけてこいって言ってるようなもんじゃん」  堂上のやりそうなことである。  あの男は悪魔のように人を使うのがうまいのだ。使えると思えば誰彼構わず使い倒す。  しかも、本人が自分の意思で動いていると思わせるのがめちゃくちゃうまい。 「でも、よくアポなしで会えたな」

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