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【21】ー3
清正と最初に出会ったのは大学一年の時だと、朱里は話し始めた。
同じ学部で、選択する講義のいくつかが重なり、何度か話すうちに魅かれるようになった。
けれど、清正のまわりには、たいていいつも女性がいて、気持ちを伝える機会はなかった。
四回生になった時、たまたま同じ教授から卒論の指導を受けることになった。
秋が終わる頃、朱里は想いを告げた。
清正は穏やかに笑い、朱里との交際を受け入れた。
「嬉しかったわ。今でも、あの時のことを思い出すと、そう思えるんです」
付き合い始めると、清正の友人たちは口を揃えて言った。
『光に似ている』
『清正の好みの顔なんだな』
光というのが誰なのか、気になって聞いた。
付属高校からの共通の友人たちが『光は清正の親友だ』と教えた。
一番の親友なのだと。
顔だけ見れば人形のような美少女顔。
なのに、中身は毛を逆立てた猫のような男で、怒ると手が付けられない。
そのくせ、急にぽろぽろと涙を零し始めることもある。
とにかく変わった男なのだと、彼らは言った。
光は清正が助けなければ生きられない。
だから、いずれ会う機会もあるだろう。
そう言われたのに、その機会が来る前に、いつの間には朱里は清正と別れていた。
最初に別れた時の理由は今もわからない。
会いたいと言えば会ってくれるし、会えば優しくしてくれる。けれど、清正のほうから朱里を求めることは、一度もなかった。
電話やメールをもらったこともない。
卒業し、それぞれ別の会社で社会人としてのスタート切ると、「会いたい」という言葉が言えなくなった。
そうしていつの間にか会わなくなった。
会わなくなっても、清正から何か言ってくることはなかった。
「私がいなくても、なんとも思わなかったみたい」
五月の連休に会ったのが最後で、夏になる頃には朱里から連絡することもなくなったという。
自分の何がいけなかったのかと考えたこともある。
けれど、最後は、結局清正とは縁がなかったのだと、だから、もう清正のことは諦めようと、自分に言い聞かせることにした。
汀がお腹にいると知ったのは、諦めようと決めた、ちょうどその頃のことだった。
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