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【21】ー2
何からどう聞けばいいのかわからずに黙っていると、朱里が先に口を開いた。
「すみません。今、ちょっと立て込んでいて、お話は私の家でしてもいいですか」
すぐそこですから、と言われて、曖昧に頷いた。
和菓子屋の裏に建つ古い木造アパートの階段を上がった。
朱里がドアを開けると、妙にガランとした空間があった。
「今、引っ越しの最中なんです。大きな荷物は昨日運び出してもらって、今日はこれから、ここにあるものを処分してもらうことになってて」
「引っ越し……」
汀を抱いたまま、ああ、そうかと思って、うつむくように頷いた。
「清正のところに、行くんですね……」
「あら。違いますよ」
即座に朱里が否定する。
違います、と繰り返し言うのを聞いて、光は顔を上げた。
「でも、再婚するって……」
「ええ。おかげさまで、ご縁があって再婚することになりました。でも、相手は清正くんじゃありません」
「え……?」
やっぱり、と朱里が笑う。
「やっぱり勘違いなさってる。全然、違う人なんですよ?」
「でも……」
よりを戻したというのなら、相手は清正しかいないのではないかと不思議に思う。
「お義母さまからも、先日、『清正とよりを戻したんですって?』ってお電話をいただいて、どうしてそんな話になったのかとビックリしましたけど、違うんです。お義母さまにも、その時にお話したんですけど」
朱里は困ったように笑っている。
本当に、相手は清正ではないのだろうか。
「何もありませんけど、どうそ中へ」
汀を下ろして靴を脱ぐ。
半べそをかきながらも、汀は光のシャツを掴んで大人しくしていた。
ペットボトルのお茶と『どら屋』のどら焼きを畳の上に置きながら、朱里が口を開いた。
「ほんとに、グラスも何もなくて……」
グラスどころか、それを置くテーブルもない。
段ボールの箱を前に、家具の跡の残る畳の上に、汀を膝に乗せて座る。
朱里は、本当に結婚する相手は清正ではないのだと繰り返して、少し笑った。
それから光の目をまっすぐ見つめて、静かに言った。
「だって、清正くんが好きなのは、光さんですよね」
光は息を止めた。
「私、ずっと、知っていました」
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