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【22】ー4

 外に出て二人きりになると、なんとなく気詰まりな空気になった。  喧嘩別れのように光が上沢の家を出てから数週間が経っている。  何を話していいかわからなかった。 「朱里が……」  清正が口を開いた。  少し無理をしている気配がある。 「朱里……、光が作った名札のラベル、すごく喜んでた」 「え……?」  ああ、あれか、と思って「うん」と頷く。 「ありがとな」  ちょっと泣いてたぞと言われて、照れくさくなった。  けれど、すぐにまた話題がなくなり、気まずく黙り込んだまま駅前の道を渡った。  渡れば、すぐに駅だ。  気まずい空気が消えないまま、ホームへの階段を昇る。  二階にある改札を、それぞれICカードで抜けると、清正は下り電車のホームに続く右手の階段に向かって歩き出す。  光は上り車線に続く左手の階段へと足を向けた。  左右に分かれてぼんやりと進み始め、数歩進んだところで、お互いが別々の方向に向かっていることに気付いて、立ち止まった。  光が横を向くと、清正も光を見ていた。 「あ。えっと……、じゃあな」 「ああ」  短い挨拶を交わしたものの、どちらも動かず、その場に立ち尽くしていた。 「……朱里さん、オーストラリアに行っちゃうのか」 「ああ。相手が向こうの人らしい」 「相手の人って、外国人なの?」 「らしいな」 「……そうなんだ」  大変そうだね、と意味のない言葉を口にしてみる。  会話が続かず、少し悲しい気持ちになる。 「汀、ほんとは、朱里さんに会いに行ったのかな」 「違うだろ。朱里から聞かなかったのか?」 「あ。聞いた……。でも、ほら、今日で最後ってわかってたとか」 「ないな。俺もさっき初めて知った」 「そ、そうか」  気持ちが焦る。 「汀、お泊り大丈夫かな」 「大丈夫だろ」 「でも、お泊りしてもすぐ寝ちゃいそうだな。遊んだ日は、汀、寝るの早いから。行くまでもお昼寝しそうだし……。せっかくなのに、朱里さん、寂しいだろうな」 「いいんだ」  清正はかすかに笑って言った。 「それが朱里の望みだから」 「え……?」 「朱里は、汀の寝顔をほとんど見たことがないんだよ。だから、最後くらい、ゆっくりと寝顔を眺めて過ごしたいんだそうだ」 「そう、か……」  月に一度。  会うたびに大きくなる汀を、朱里はどんな気持ちで見てきたのだろう。  寝顔も、歯磨きも、風呂の前にトイレに行って半ズボンを引きづっている姿も、知ることなく。 「汀が……」 「うん?」 「お泊り、行くって言って、よかったな」 「ああ」  願いが叶えられてよかった。  それきりまた会話が途切れた。  黙っていると、清正がぽつりと言った。 「汀は……、光に、会いに行ったんだな」  視線を上げると、清正が一度口をぎゅっと硬く結んだ。  それから息を吐くようにして言った。 「俺のせいだろうな……」  自分が光に会わせなかったからだ。  そう言ってうつむいた。

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