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【22】ー3

 朱里と何か話していた清正が汀に声をかける。 「汀、夕方から、ママと水族館、行くか?」 「しゅいじょくかん、いちたい」  夜のだぞ、と笑いかける。  いつもと違う魚がいるのだと清正が身振り手振りで言うと、汀はぴょんぴょん跳ねて「いちたい」とはしゃいだ。 「汀、その後、ママと一緒にお泊りもする?」  朱里の声に、汀は跳ねるのをやめた。  清正を見る。 「パパは?」 「パパは行かない。ママと汀だけだ」  汀は急にもじもじと清正にしがみついた。清正は汀を抱き上げ、目を見ながら静かに話す。 「ママは、明日オーストラリアっていう国に行く。遠いところだから、しばらく会えなくなる」  汀は黙って清正のネクタイを弄っている。 「だから、最後に汀と、特別なデートがしたいんだ」 「パパもいっちょ」 「パパはいかない。一人じゃお泊りできないか?」 「みぎわ、……」  朱里が横から「いいのよ」と言った。 「ごめんね。ちょっと言ってみただけだから」  汀に向かって、もう一度「ごめんね。いいのよ」と繰り返す。  それから、そろそろ不用品の引き取り業者が来るのだと言って立ち上がった。  清正と光も腰を上げた。  その時、汀が小さな声で言った。 「みぎわ……、ママとおとまい、しゅゆ」 「え……」  朱里が慌てて、汀と目の高さを合わせる。 「ほんとに? いいの? 汀だけで……?」  汀は頷いた。 「みぎわ、よんしゃい」  指を四つ立てて誇らしげに朱里の前に突き出す。 「そう……。そうね。大きくなったわね」  朱里は何度も頷いて、汀をしっかり抱きしめた。  冒険の疲れが出たのか、汀は少し眠そうだ。  業者に立ち合うだけなので、朱里はずっと部屋にいるという。少し眠らせて、夕方水族館に行って、その後近くのホテルに泊まると、今後の予定を清正に告げた。  清正は、明日の昼、搭乗手続きをする前に汀を空港まで迎えに行くと約束した。  半分うとうとし始めた汀と朱里を残し、清正と光はアパートを後にした。

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